Mのメモ

ポスドクの論文メモ。神経科学関連のツールに触れることが多め。

“Prospective” にAAV搭載可能な細胞種特異的エンハンサーを探索する

Prospective, brain-wide labeling of neuronal subclasses with enhancer-driven AAVs

Lucas T. Graybuck, Adriana E. Sedeño-Cortés, Thuc Nghi Nguyen, Miranda Walker, Eric Szelenyi, Garreck Lenz, La’Akea Sieverts, Tae Kyung Kim, Emma Garren, Brian Kalmbach, Shenqin Yao, Marty Mortrud, John Mich, Jeff Goldy, Kimberly Smith, Nick Dee, Zizhen Yao, Ali Cetin, Boaz Levi, Ed Lein, Jonathan Ting, Hongkui Zeng, Tanya Daigle, and Bosiljka Tasic
bioRxiv, posted on January 31, 2019, doi: https://doi.org/10.1101/525014

【概要】

  • 既存Creマウス等の細胞について、scATAC-seq*1を行い、既知のscRNA-seqデータと対応付けてエンハンサー候補配列を推定。
  • AAV-PHP.eBや全脳イメージング等を用いた評価系で、皮質L5のPTニューロンとITニューロン特異的(ある程度のオフターゲットはまだあるが)なエンハンサーを同定。


【背景】
一般に細胞種特異的なラベリングはCreマウスを用いて行われますが、AAV搭載可能なエンハンサーだけでこれが行えれば、実験スループット向上やヒトへの応用が見込めます。ただし、これまでそのようなエンハンサーは少数しか見つかっておらず、システマチックに新規のエンハンサーを同定するような試みが待たれていました。

そんな中、大量のCreマウスを保有するAllen Instituteから、既存CreラインやCAV-Cre, scATAC-seqとscRNA-seq、AAV-PHP.eBを組み合わせ、”Prospective” *2に新規のエンハンサーを2つ釣ってきた、という発表がありましたのでご紹介。


【結果】
Fig. 1は実験スキーム。以下の通り。

  1. 25種のCre-reporterラインの掛け合わせマウス、あるいは異なる3か所にCAV-Creを打ったレポーターマウスについて、V1をセクショニング、FACSにかけてtdTomatoポジの細胞をsingle cellに分離。
  2. 各細胞をscATAC-seqにかけ、その結果に基づいてクラスターを作成。個々のクラスターについて、細胞種のマーカー遺伝子転写開始点へのアクセシビリティ(転写開始点±20 kbpのATAC-seq結果)を、scRNA-seqのデータセットから得られる各遺伝子の発現量と対応付け、細胞種を同定(Tasic達が去年発表したscRNAデータに基づいた分類。こんなんでうまくいくんだーというのが個人的に結構びっくり)。
  3. クラスターについて、種間保存性が高い、~500 bp程度のエンハンサーらしき配列を推定(scRNA-seqの結果から狙いたい細胞種の特異的マーカーとみられる遺伝子のTSS ±1 Mbpについて、scATAC-seqの結果から探索。ここはマニュアルらしい)
  4. 該当配列をクローニングしてミニマルプロモーターに結合、その制御下でリコンビナーゼまたは蛍光タンパク質を発現するようなpAAVを作成し、AAV-PHP.eBでパッケージング
  5. 作成したAAV-PHP.eBを(レポーター)マウスに打ち込み、2週間後に発現パターンを組織学的に観察またはFACS→scRNAで細胞種を同定

Fig. 2では実際にscATAC-seqから作成されたクラスターが示されており、綺麗に分かれている様子が見て取れます(Fig. 2c, d)。また、それぞれのクラスターはscRNA-seqのデータから既知の細胞種の発現パターンに相関するようです。そして、筆者らは特に、V1のL5が3種類の細胞種(IT:他皮質に投射, PT:視床に投射, NP: 近くの細胞に投射)に分かれること、ITとPTを分けるエンハンサーが未知であることから、ITもしくはPTスペシフィックなエンハンサーを釣ってくることを目的としました。そのために、ITとPT両方をラベルするRbp4-Creのデータと、視床に打ち込んだCAV-Creのデータから、PTだけでオープンになっている配列4種類程度と、ITだけでオープンになっている配列2種類を同定し、これをクローニングしています(Fig. 2e.f)。

Fig. 3はこれらの制御下で蛍光タンパク質を発現するようなAAV-PHP.eBを作成し、マウスV1に局所投与した結果です。Fig. 3bが発現の様子で、2つのエンハンサーでL5での特異的な発現が見られました(Fig. 3a,b, mscRE4とmscRE16。mscRE: mouse single-cell regulatory element)。特に、mscRE4でラベルされた細胞をFACSで単離したところ、90%以上がL5のPTニューロンであることがわかりました(FIg. 3c)。このような細胞の電気生理学的な性質も既知のPTのものと一致することが示されています(Fig. 3d)。

Fig. 4, 5はこれらの制御下で様々なリコンビナーゼ(FlpO, iCre, dgCre,)またはtTA2を発現し、それぞれに適したレポーターラインにAAV-PHP.eBを静注した際の結果です。dgCreを除いたリコンビナーゼとtTA2で特異的なL5特異的な発現が見られていますが、その効率や特異性はタンパク質によって異なることがわかりました(Fig. 4a)。特に特異性の高かったFlpOについて全脳の発現を2-photon tomographyで見たところ、mscRE4 では皮質で発現する細胞の87.5%がL5のPTを、mscRE16 では42%がL5のITをラベルしていることがわかりました。ただし、他の脳領域において予想外のラベリングを相当量していることもわかりました (Fig. 4b, c、Fig. 5a-c, Supp Fig. 11)。


【感想】
オフターゲットは多いですが、mscRE4くらい特異性が高ければ、AAV-PHP.eBの静注でCreを発現させて、局所性が担保されている領域にCre依存的に発現するような配列を有するAAVを打ち込む、という使い方はできそうですね。他グループからもATAC-seqを用いた類似報告が上がってきていますが(それはそれでDNA barcodeを使っている等の工夫があって魅力的なのですが)、Creマウスとマンパワーを大量に保有している点で、この辺はAllen Instituteが蹂躙していきそうな気はします。

最初パッと見た時は同じ細胞からscATAC-seqとscRNA-seqをしたのかと思いましたが、そうではなく、scATAC-seqのデータを、既存のscRNA-seqのデータと対応付けていたのが意外でした。そんなにうまくいくのね。あと、TSS±1 MbpのATAC-seqデータからputativeなエンハンサーを探してきたそうですが、その過程がマニュアル(職人技)なのが少し気がかりで、ここを自動化できたらより汎用性の高い手法になるんじゃないかな、と思いました。

搭載可能遺伝子配列長の制限、力価・個体による感染効率のバラつき、トロピズム、オフターゲット等の問題はついて回りますので、全てのCreマウスが不要になるということは無いと思いますが、ワクワクする論文でした。ただし、25種類のCreマウスを用いてこれだけしか見つからなかったのか、あるいは今色々と見つけている途中なのかは明記されていなかったので、スケーラビリティについての判断はまだできないです。つまりこのアプローチが『見込みがある』という意味でProspectiveかは、まだわからん、と(うまい)。これから数年でバンバン新たなエンハンサーが報告されることに期待しましょう!

注意すべき点としては、力価やリコンビナーゼの選択によって特異性に若干の変化が出ることです(Supp Fig. 9, 10)。単純に、『このエンハンサーを使えば狙った通りの細胞が100%ラベルできる!』と考えてこのツールを用いると、思わぬ落とし穴にハマるかもしれません。例えば別のエンハンサーを組み合わせるとか、undesiredな細胞種でmRNAの分解が促進されるような3’UTR配列を加える等、よりロバストかつタイトな標識を実現するための工夫はまだ必要そうです。

*1:ATAC-seq: hyperactiveなTn5 transposaseをアダプター配列と共に細胞に入れると、オープンクロマチン構造にアダプター配列が挿入される。そして、アダプター配列を対象としたプライマーで配列を読めば、オープンクロマチン構造を同定できる。

*2:特定の配列でラベルされた細胞をRNA-seqで読んで標識特異性を検討してきたこれまでの研究を”retrospective”と呼び、既にある程度特異的にラベルされたCreマウス等の細胞をsingle-cellで読んでエンハンサーを探してくるのを”prospective”と呼んでいるようです(その効果の評価過程は”retrospective”とあまり変わらないような気もしますが)

AAV-PHP.eBは内皮細胞のLY6A依存的に血液脳関門を通過する

Delivering genes across the blood-brain barrier: LY6A, a novel cellular receptor for AAV-PHP.B capsids
Qin Huang , Ken Y. Chan, Isabelle G. Tobey, Yujia Alina Chan,Tim Poterba, Christine L. Boutros, Alejandro B. Balazs, Richard Daneman, Jonathan M. Bloom, Cotton Seed, Benjamin E. Deverman
bioRxiv 538421, Posted February 01, 2019., doi: https://doi.org/10.1101/538421

【概要】
異なる13系統のマウスのゲノムと表現型(感染の有無)から、AAV-PHP.eBがBBBを通過するためには、血管内皮細胞が発現するLY6Aが必要であることを示唆した。

【背景】
AAV-PHP.eBは静注するとBBBを通過して脳の細胞に感染します。ただし、どのような機構でBBB通過を実現しているのかは明らかではありませんでした。
さて、AAV-PHP.eBには同じマウスでも系統が異なるとBBBを通過しないという弱点がありました。今回AAV-PHP.eBの開発者であるDevermanはこの事実を逆手に取り、内皮細胞が発現するLy6aというタンパク質がBBB通過に重要な役割を果たすということを示唆しました。

【手法と主要な結果】
Apache Spark(巨大なデータに対して高速に分散処理を行うオープンソースフレームワーク、らしい)を用いたHailというゲノム比較ソフトウェアによって、表現型と対応付けられるSNPまたはindelの絞り込みのために、何系統のマウスを比較するべきかの当たりを付ける
→タンパク質をコードしている領域等、候補となる可能性の高そうな部分だけなら、12系統もあれば10箇所くらいに絞り込めると想定(Fig. S2a)

・13系統のマウスを導入してAAV-PHP.eBをインジェクション、nls-GFPを発現。表現型とゲノムを比較(Fig. S2A)
→7系統で感染あり、他は無し(Fig. 1D)
→Ly6aまたはLy6c1のミスセンスSNPが候補であることが想定される(Fig. 1D)

・Ly6a抗体による免染によって局在を検討
→LY6Aが血管内皮細胞に発現していることを免染によって確認(Fig. 2A)。
→AAVの感染と免染によるLY6Aの有無が相関することを発見(Fig. 2AおよびFig. S3。個人的には一残基のミスセンスで染まらなくなるのは自明ではない気もするが…)。LY6C1は相関無し(Fig. 2D)。

・C57/B6由来の微小血管内皮細胞培養細胞(BMVEC)のLy6aまたはLy6c1をAAV-SaCas9でKOし、その後AAV-PHP-eB感染の変化を検討(qPCRまたはルシフェラーゼアッセイ)
→Ly6a KOではAAV-PHP.eBの感染効率が低下。qPCRでもルシフェラーゼアッセイでも。(Fig. 3D、E)

・HEKにLy6aまたはLyc1を過剰発現。その後AAV-PHP-eB感染の変化を検討(qPCRまたはルシフェラーゼアッセイ)
→Ly6a OXではAAV-PHPシリーズの感染効率が上昇。qPCRでもルシフェラーゼアッセイでも。(Fig. 3F、G)

・Ly6aのミスセンスのうちどれがクリティカルに効いてくるのかを検討。ミスセンス変異体を発現した細胞ライセートをウイルスとインキュベーションしてウェスタンブロッティング。
→V106Aのミスセンス変異体ではPHP.eBのカプシドが検出されなかった(Fig. 3H、ここではLY6A抗体がミスセンス変異体にも効いているのは疑問ではある)。
→この残基がAAV-PHP.eBとの相互作用に重要であると考えられる。

・AAV9ならば細胞への結合に重要なガラクトースがAAV-PHP.eBの結合にも必須か検討。ガラクトースを細胞外に出す細胞株Lec2と、そうであないPro5, Lec8(全部CHO細胞系)にLy6aを導入、qPCRとルシフェラーゼアッセイによって感染効率を検討
→AAV-PHP.eBは、Ly6a導入無しではほかの細胞株に比べてLec2に良く感染する。ただし、Ly6aを導入すればLec2と他の細胞株との感染効率にほとんど変化はなくなる(Fig. 4A-C)
→LY6Aがガラクトースと独立して働いていることを示唆

・AAVR(普通のAAV感染に必要な受容体)KOマウスにAAV-PHP.eBを投与。nls-GFPの発現を検討
ニューロンへの感染は無くなるが、血管内皮細胞には感染する(Fig. 4F)
→他のAAVと同様の感染機構と、それとは別の感染機構を同時にもっていることを示唆

【感想】
AAV-PHP.Bを作成した時のスクリーニング系(CREATE)の時も感じましたが、スクリーニング系がエレガントです。タンパク質だけでなく責任残基までも見つけて来るとは。ちなみにDiscussionによるとスクリーニングは3週間で終わったんだそうです。

V106ですが、配列から、GPI付加配列のオメガサイト(切断点)だと予想されるんだとか。ここに変異が入るとGPIアンカーが結合しなくなるので、細胞内輸送や局在がおかしくなるのかもしれません。

敢えて批判をすると、Preprintなだけあって全体的に例数が少ないのはちょっと気になります(n = 3が多い)。あと、Ly6aをKOまたはミスセンス変異体をKIしたC57/B6にAAV-PHP.eBを感染させるような実験があれば更にいいなと思いましたが、現在DevermanはFeng ZhangのいるBroad Instituteにいるみたいなので、もう検討は始まっているんじゃないかなーと予測されます。残念ながら霊長類にはLy6aがないのですが、Ly6のホモログはあるそうなので、その辺をターゲットに色々やればヒトに適用可能なAAV-PHP.eB的なウイルスができるのかもしれません。

Topological Engineering - チャネルロドプシンを膜に対して逆向きに挿入できる&逆向きに挿入されたオプシンは新たな性質を持つ

Expanding the Optogenetics Toolkit by Topological Inversion of Rhodopsins

Cell, 175, 4, 1131-1140.e11
Brown J, Behnam R, Coddington L, Tervo DGR, Martin K, Proskurin M, Kuleshova E, Park J, Phillips J, Bergs ACF, Gottschalk A, Dudman JT, Karpova AY

  1. 特定の配列を融合するだけでチャネルロドプシン等を膜に対して逆向きに挿入できる(Fig. 1)
  2. 逆向きに挿入された光遺伝学ツールは新たな性質を持つ(Fig. 2)。
  3. 逆向きにしたChR2 E123T/T159Cはvitro(Fig. 4)およびvivo(Fig. 5)において抑制性の光遺伝学ツールとして有用である

融合したタンパク質は、Neurexin 1Bの膜貫通ドメインに、furinプロテアーゼで分解されなくなる配列を付加したものだそうです。他にも、Synaptobrevinの膜貫通ドメインや、ハエの嗅覚受容体OR 59D.1のN末端配列の一部でも同様にチャネルを逆に挿入できることを示しています。このような改変を筆者らはTopological InversionまたはTopological Engineeringと呼んでいます。


これだけでも驚きなのですが、Fig. 2、つまり逆向きに挿入された光遺伝学ツールが新たな性質を持つのも意外です。本論文で見られているのは以下の2つ。

  • 逆向きにした CsChrimson の場合|逆転電位とイオン選択性が変化
  • 逆向きにした ChR2 E123T/T159C の場合|至適波長がレッドシフトした非選択的カチオンポンプになる(FLInChRと呼ぶ)


Karpova, ツール作りのラボじゃないのに、rAAV2-retroに続いて、とても面白いモノを出してきました。複数の融合配列がタンパク質を逆にできること、そして複数のオプシンが逆になり、一部は新たな性質を持つようになることから、Topological Engineeringというのは応用範囲が広そうなタンパク質改変のアプローチであることを示唆しています。

論文に登場したマウスお絵かき傑作選

1. Alhadeff et al., Cell (2018)
A Neural Circuit for the Suppression of Pain by a Competing Need State
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そこはかとない欧米感


2. Partridge, Front. Pharmacol. (2015)
Utilizing GCaMP transgenic mice to monitor endogenous Gq/11-coupled receptors
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ネズミ…?


3. Feinberg et al., Nature (2015)
Orientation columns in the mouse superior colliculus

まずはFig 1
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続いてExtended data 1
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4. Nashaat et al., eNeuro (2017)
Pixying Behavior: A Versatile Real-Time and Post Hoc Automated Optical Tracking Method for Freely Moving and Head Fixed Animals
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5. Jouhanneau et al., Neuron (2014)
Cortical fosGFP Expression Reveals Broad Receptive Field Excitatory Neurons Targeted by POm
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6. Tervo et al., Cell (2014)
Behavioral Variability through Stochastic Choice and Its Gating by Anterior Cingulate Cortex
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後輩のI氏はこのfigを見ながらこれを思い出していたらしい


番外編. Graziano et al., Neuron (2002)
The Cortical Control of Movement Revisited
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定番。

GCaMP7(A317Lとは?)

jGCaMP7 cultured neuron data

Unpublished, Douglas Kim and Colleagues

論文ではありませんが、JaneliaのGENIEがGCaMPの新シリーズを出しているようですのでご紹介。jGCaMP7。全部で4種類。

  • jGCaMP7s - sensitive detection of activity
  • jGCaMP7f - more sensitive replacement for GCaMP6f
  • jGCaMP7b - higher baseline fluorescence, for imaging small structures (neurites)
  • jGCaMP7c - very low baseline fluorescence, for wide-field imaging

培養ニューロンでの基礎データはこちら(タイトルのリンク先、一番下のPDFより)。
f:id:tak38waki:20180215004729p:plain

プラスミドはAddgeneで購入可能。AAVはまだ。
https://www.addgene.org/browse/article/28192237/


どういう改変を入れたかについての説明書きはGENIEのページには無いのですが、Addgeneのページでタンパク質の別名を見たところ、以下のようにありました。

  • jGCaMP7s:GCaMP3-A52V K78H T302L R303P A317L D380Y T381R S383T R392G
  • jGCaMP7f:GCaMP3-T302L R303P A317L D380Y
  • jGCaMP7b:GCaMP3-T302P R303P A317L M374Y D380Y T381R S383T R392G
  • jGCaMP7c:GCaMP3-L59Q E60P T302L R303P M378G K379S D380Y T381R R392G T412N

参考までに、GCaMP6シリーズとGCaMP5Gの別名をば。

  • GCaMP6s: GCaMP3-K78H T302L R303P D380Y T381R S383T R392G
  • GCaMP6m: GCaMP3-T302L R303P M378G K379S D380Y T381R S383T R392G
  • GCaMP6f: GCaMP3-T302L R303P A317E D380Y T381R S383T R392G
  • GCaMP5G: GCaMP3-T302L R303P D380Y

つまり、やったことはこういうことみたいです。

  • jGCaMP7s: GCaMP6sにA52V A317Lを追加
  • jGCaMP7f: GCaMP5GにA317Lを追加
  • jGCaMP7b: GCaMP6sからK78Hを抜いてA317L M374Yを追加。T302LをPへ(18/12/09追記)。
  • jGCaMP7c: GCaMP6mからS383Tを抜いてL59Q E60P T412Nを追加


個人的に特に興味深いのはjGCaMP7fで、GCaMP6シリーズの開発で見つけた変異を全部無視し、GCaMP5GにA317Lという、一個の変異を入れることでここまで驚異的な進歩を生み出しています。

GCaMP6論文に記述があったのですが、A317はM13–CaMが相互作用する場で、Caへの親和性に影響するとのこと。GCaMP6シリーズの開発でもここは検討の対象になっており、実際6fでA317Eという変異が入っているわけですが、何故このA317Lという変異が見落とされていたのかは謎。

jGCaMP7s, f, bで採用されているこの変異が一番のブレイクスルーだと思われます。A52V、L59Q、E60PはcpEGFPの残基。ベースの蛍光を落とすのに役立ってるのでしょう。M374YとT412NはCaMの残基。



PS
そもそもGCaMPってどういう原理で動いてるの?という方はコチラの記事もご参照ください
http://tak38waki.hatenablog.com/entry/2014/04/29/033013

Arcはウイルス様のカプシドを形成してmRNAを細胞間輸送する(かも)

The Neuronal Gene Arc Encodes a Repurposed Retrotransposon Gag Protein that Mediates Intercellular RNA Transfer

Cell, 172(1-2), 275-288.e18
Pastuzyn ED, Day CE, Kearns RB, Kyrke-Smith M, Taibi AV, McCormick J, Yoder N, Belnap DM, Erlendsson S, Morado DR, Briggs JAG, Feschotte C, Shepherd JD.

Arcと言えば「神経活動依存的に発現する遺伝子」というイメージが強いかと思います。その都合の良い性質から、神経活動を調べるためのツールとして応用されることが多いため、Arc神経科学者お気に入りの遺伝子の一つになっていると言えるでしょう。一方で、タンパク質としてのArcの機能も盛んに研究されており、例えば、活動の弱いシナプスに集積してGluA1のエンドサイトーシスに関わる(Okuno et al., 2012)とか、他にも色々なことが提唱されています。今回紹介する論文は、これらとは別の、まったく新しいArcの機能を示唆するものです。

今回Shepherdらのグループは、Arcタンパク質はmRNAを包んだウイルスのようなカプシドを形成できることを示しました。そして、このカプシドは細胞外小胞(以下EV)に包まれてニューロンから細胞外へ放出されることにより、細胞間でmRNAの輸送を行いうる、という説を主張しています。根拠となる主なデータは以下の通り。

  • ArcはレトロウイルスのGag(カプシドタンパク質をコードする遺伝子)と似た配列を含んでいる。そこで、Arcもウイルスのカプシドのような構造を形成するか調べるため、何の配列も付加していない状態のラット由来Arc(prArc) 2 mg/mLを負染色電顕またはクライオ電顕によって観察した。結果、直径32 nm程のウイルスのカプシド様の構造が観察された(Fig. 1B)。このことから、Arcもウイルスのカプシドのように核酸を運べる可能性が考えられる。
  • Arcタンパク質が核酸を包んでいるかを検討するため、大腸菌から精製したprArc溶液から、ArcasnAバクテリアに豊富に存在)のmRNAについてqRT-PCRを行ったところ、どちらのmRNAも確認された。Arcの1/15倍量のmRNA量を持つasnAは、Arcの1/10倍だった(Fig. 2A)。このことから、prArcはmRNAに結合すること、とくにその場に多いものに結合する可能性が考えられる。また、これらのmRNAはRNAse処置によって無くならず、カプシドの中で守られていると考えられる。なお、prArc精製前に核酸を取り除く操作を行うと、prArcのカプシド構造は観察されなくなった。このことから、カプシド形成には核酸が必要である可能性が考えられる(Fig. 2E)。
  • レトロウイルスのカプシドは、EVと似たような機構で細胞から放出される。もしArcがレトロウイルスのように細胞外へと放出されるのであれば、EVと一緒に取れてくる可能性が考えられる。そこで、実際にニューロンからArcが放出されるかを検討するため、培養マウス皮質ニューロンのEV画分を超遠心機を用いて分離したところ、ウェスタンでArcタンパク質が確認された(Fig. 3D)。また、EV画分をqRT-PCRにかけたところ、ArcのmRNAが検出された(Fig. 3E)。更に、EV画分についてArcを免疫金標識して電顕で観察したところ、EVの14%がArcポジティブだった(Fig. 3F)。このことから、vivoではEVに包まれた状態のArcタンパク質およびmRNAが存在していることがわかる。
  • 放出されたArcがmRNAを他のニューロンに輸送しうるか検討するため、Arc KOマウス由来の培養ニューロンにWT由来のEVを処置した。処置1時間後のサンプルからはArcタンパク質シグナルの上昇が見られ、4時間後のサンプルからはmRNAの上昇が見られた(Fig. 6)。このことから、EVがArcタンパク質を介してArc mRNAを輸送している可能性が考えられる(にしてもタイムコース遅いですね)。
  • 輸送されたArc mRNAが輸送先で転写されるか検討するため、Arc KOマウス由来の培養ニューロンにWT由来のEVを処置後、Arcの転写を促進することが知られているDHPG(nGluR1/5アゴニスト)を処置した群としなかった群でArcタンパク質量を免染の蛍光強度で定量したところ、処置群の方で有意に高い蛍光強度が見られた(Fig. 7B)。このことから、輸送されたArc mRNAがDHPG依存的に転写されたことが示唆される。

他にも、Arcのカプシド形成および細胞間mRNA輸送に必要なドメインの同定とかもやっています。筆者らは、今回見られたようなArcのカプシドを、”Arc Capsids Bearing Any RNAs”を略してACBARsと呼ぶことにしたようです。我々にとって親しみ深いArcにこのような側面が隠れていたとは、驚きです。

ただ、データの細かいところを見ると、色々と気になるところはあります。例えば、上では扱いませんでしたが、Fig. 4は、融合タンパク質でも本当にカプシドができるのか?とか、プラスミドとトランスフェクション試薬が培地にちょっとでも残ってたら同じ結果が出るんじゃないか?とか、定量データが無いけど再現性はあるのか?とか。あと、Fig. 5以降のデータは、タンパク質とかmRNA量の指標として、KOニューロンで検出された蛍光強度のfold changeで出しています。KOでは本来何も検出されないはずなので、ここで出ている数値をどう解釈したらいいのかはよくわからないです。

それと、これはふつうに面白いなと思った点ですが、Fig. 5とか7AではprArcを培養Arc KOニューロンにぶっかけることでArcタンパク質やmRNAが検出されるようになるということを言っています。つまり、EVに包まれてない、いわば剥き出しのカプシドでも細胞内に入って行けちゃう、というデータです。詳しいメカニズムは不明ですが、これってどんなmRNAでもArcカプシドに包むだけでニューロンに導入できちゃうってことなんですかね?もしそうなら、毒性低そうだし、比較的簡単に調整できそうなベクターで、応用効きそうな感じもしますね。

注意したいところですが、本論文中ではvivoでもカプシドが形成されているのか、EVの中にArcの「カプシド」が含まれているのか(免疫金標識じゃ見えない理由ってあるんだろうか…?)、カプシドがvivoでもしあったとして、EVに包まれないと細胞外へと放出されないのか、ということまでは示されていません。この辺は今後何らかの方法で検討されていくのではないかと思われます。

なお、これと一緒に出たThomson, Budnikらのグループからの論文では、ハエのArcホモログdArc1が神経筋接合部のシナプス間を移動しうると主張されています。中枢ではないですが、だからこそ、プレとポストが異なる細胞種由来であることを利用して、細胞種特異的な操作を行うことにより、vivoの系でも同様の現象っぽいものを見ることが可能になっているという点は特筆すべきかと思います。また、EV内に含まれるmRNAの網羅的な解析をして、dArc1の量が一番多いことを示しており、この論文も読み応えがありました。

著者らの主張が正しかったとして、Arcカプシドによって運ばれるArcが輸送先で何をしているのか、とか、Arc以外にはどのようなmRNAを運ぶのか、とか、運ばれるものの内容は状況によって異なるのか、とかが気になりますね。Arcって活動の弱いスパインに集積してるイメージがあるんですけど、「お前は俺と結合してる中では相対的に弱い方だぞ」、的な情報をプレシナプスにフィードバックしているんでしょうか。そうだったとしたら何のmRNAを送って、何をやらせるんでしょうか。妄想が膨らみます。笑

GlyoxalはPFAに取って代わる固定剤となる…のか…?

Glyoxal as an alternative fixative to formaldehyde in immunostaining and super‐resolution microscopy

The EMBO Journal (2017) e201695709, DOI 10.15252/embj.201695709
Richter KN, Revelo NH, Seitz KJ, Helm MS, Sarkar D, Saleeb RS, D'Este E, Eberle J, Wagner E, Vogl C, Lazaro DF, Richter F, Coy-Vergara J, Coceano G, Boyden ES, Duncan RR, Hell SW, Lauterbach MA, Lehnart SE, Moser T, Outeiro T, Rehling P, Schwappach B, Testa I, Zapiec B, Rizzoli SO.

組織の固定によく用いられるPFAは、実は毒性高いとか標本の形態が微妙に変わるとかいう問題を抱えています。そこで別の選択肢としてグルタルアルデヒド等があるわけですが、そいつらも一長一短。例えばグルタルアルデヒドは、浸透性が低いとか架橋が強すぎるとか自家蛍光が強いとかいう問題があります。筆者らは、これらの問題を解決しつつ、簡単に手に入る固定剤を探しました。

行きついたのがGlyoxal。最も簡単な構造のジアルデヒドです。Fig. 16を見る感じ、PFAの上位互換というよりは、固定する対象によってはPFAより良いこともある、という感じ。PFAより良い点として、浸透が速い(fig. 1)とか形態の変化が少ない(Fig. 2)とかタンパク質の固定力が強い(Fig. 3)とかを挙げていますが、それぞれ根拠となるデータは、PIが細胞内に入っていく時間が速い(Fig. 1)とか、培養細胞の形態変化が少ない(FIg. 2)とか、細胞の破砕液に固定剤を加えた後にSDS-PAGEしてみた時のバンドが濃い(Fig. 3)とか。Fig. 2は良さそうですが、Fig. 1, 3は、このデータでそれが言えているのか疑問です。まぁ、見たいタンパク質がPFA固定して免染で染まらない時は、試してみるのもありなのかな、というくらいの受け取り方で良いと思います。

気になる組成は以下の通り。4 mLの固定剤を調整するのに…

  • 40% グリオキサール...0.313 mL
  • エタノール...0.789 mL
  • 酢酸...0.03 mL
  • DDW...2.835 mL
  • NaOH...pH 4-5になるまで

固定した後はNH4Clとグリシンでクエンチしてます。エタノール添加とか低いpHを加える理由については、この条件だと固定前後での形態の保存がいいんだとか(Supple Table 1)。こんだけpH低いと蛍光タンパク質の消光が気になるところですね(ちなみにpHはpH試験紙で調整したとか書いてありました)。ちょっと試してみようと思うのですが、TwitterでGlyoxalを検索するとPFAの方が良いわ的なツイートが多いので、あまり過度に期待しない方が良さそうな予感もします。笑

in vitro”血管”を用いてズリ応力依存的に血管の浸潤性が変化する分子基盤を解明

A non-canonical Notch complex regulates adherens junctions and vascular barrier function

William J. Polacheck, Matthew L. Kutys, Jinling Yang, Jeroen Eyckmans, Yinyu Wu, Hema Vasavada, Karen K. Hirschi & Christopher S. Chen
Nature, doi:10.1038/nature24998

血流のShear Stress(ズリ応力)は血管の浸潤性を変化させることが知られています。しかし、その分子基盤は明らかではありません。そこで今回筆者らは、in vitroでシンプルな”血管”を再現し、そこにマイクロ流体デバイスをつないで任意のズリ応力をかけられる系を作成し、これを検討しました。結果、Notch1が、普通に知られているようなシグナル経路とは異なる働き方で関わっていることが明らかになりました。データは以下の通り。

  • 細胞外基質で囲まれた空洞内にヒト由来の血管内皮細胞を配置。ペリサイトなどに包まれてはいないものの、シンプルなin vitro”血管”, hEMVを作成。これをマイクロ流体デバイスに結合。hEMVは流れが無いと浸潤性が高いが、流れがあると浸潤性が低く、vivoの血管を模している(蛍光デキストランで確認, Fig. 1a-c)。また、ズリ応力によって発現が上がるとされるNotch1やそのリガンドのDll4等の遺伝子が実際に上がっている(Fig. 1d)。
  • Notch1の細胞内ドメインICDの切断に関わるγセクレターゼをDAPTで阻害すると浸潤性は上がる。また、リコンビナントDll4を処置すると流れが無くても浸潤性は下がる。このことから、Notch1が血管の浸潤性に関わっていることが示唆される(fig. 1f)。
  • 通常、Notch1のシグナルは転写因子として働く。そこで、転写因子co-factorであるMastermindのドミナントネガティブ体dnMAMLを発現する細胞でhEMVを作成した。狙い通りNotch依存的な転写は抑えられたが(Extended data fig 3e), 血管の浸潤性には影響がなかった(Fig. 1i)。このことから、Notch1は血管の浸潤性を低くすることに関わるが、それは既知のシグナル経路を介していないことが示唆される。
  • Notch1の細胞内ドメインICD、またはICDと膜貫通ドメインTMD両方のtruncation mutantを持つ細胞をCRISPR/Cas9で作ってhEMVを作成。ICDだけ短くした方は低い浸潤性を持つ一方で、ICDとTMDの両方を短くした方は高い浸潤性を持っていた(Fig. 2b-d)。また、Notch KOの細胞にTMDを発現させた細胞でも浸潤性の低下は見られた(Fig. 2e-g)。このことから、NotchのTMDが単体で存在することが浸潤性の低下に重要であることが示唆される。なお、TMDはVE-カドヘリンと共局在する。
  • Notch1 KOやDAPT処置された内皮細胞はRac1の活性が落ちるがTMDを発現させるとレスキューされる(Fig. 3c-f)。Rac1はcortical actinの重合を通じて内皮細胞の接着結合を強化することが知られている。
  • ではNotch1とRac1はどうやって相互作用するのか?これを調べるために、Notch1と相互作用するVEカドヘリンをWTとNocth1 KOでCo-IPしたところ、VEカドヘリン結合パートナーのうち、膜貫通チロシンホスファターゼLARの量だけが落ちていることがわかった(Extended Data Fig. 8)。なお、LARはRac1のGEFであるTrioと相互作用することが知られている。
  • VEカドヘリンは切られていないNotch1とも結合するが、この際LARとはあまり相互作用しない。Nocth1のICDが切られることによってVEカドヘリンとLARの相互作用が上昇する(Fig. 3h)。

以上のデータと、ここでは紹介しませんが膨大な量の傍証から、ズリ応力に依存したNotch1の活性化・ICDの切断が、VE-カドヘリンとLARの相互作用を促進し、Trioの膜近傍への局在化とRac1の活性化、cortical actinの重合を通じて内皮細胞の接着結合を強化することで、浸潤性を低くしていることが示されました(Extended Data Fig. 9)。

独自の系の強みを最大限活かし、Notchというメジャーな分子の通常とは異なる働き方、という意外な事実を、目で見てわかるほどはっきりとした結果で示しているという点で、強く印象に残る仕事でした。

毒性の少ない(?) Iodixanolでin vivo深部イメージングが可能に?

A tunable refractive index matching medium for live imaging cells, tissues and model organisms

eLife 2017;6:e27240 DOI: 10.7554/eLife.27240
Boothe T, Hilbert L, Heide M, Berninger L, Huttner WB, Zaburdaev V, Vastenhouw NL, Myers EW, Drechsel DN, Rink JC

光の散乱を抑えるためには、標本とそれを浸す溶液の屈折率を揃えることが肝要です。ただし、これまで3DISCO, CLARITY, Scale, CUBIC 等, in vitro標本透明化で用いられてきた屈折率調製溶液(RI=1.45~1.52くらい)は、毒性があったり浸透圧が高かったりでin vivo標本への適用は困難でした。

著者らは、屈折率増分の高い化合物であるIodixanolは、毒性・浸透圧への影響が少なく、in vivo標本に適用可能であるということを主張しています。根拠となるデータは以下の通り。

  • Iodixanolは溶媒の屈折率を濃度依存的に、線形に上昇させる。60% Iodixanol溶液のRIが大体1.43。なお、水は1.33程度(Fig. 1a)。
  • 50% Iodixanolの浸透圧はPBSより低い(Fig. 1f)。
  • 30% Iodixanol を含む培地でもHeLaは3日間は正常に増殖する。また、20% Iodixanol を含む水の中でも受精卵から発生したゼブラフィッシュは正常な体長を持ち、生存率も正常。更に、50% Iodixanolを含む水の中でもプラナリアは3週間生き残る(Fig. 2)
  • Iodixanol溶液を用いて屈折率を1.33から1.36に上昇させることにより、オルガノイドを構成する細胞の像が深部(とは言っても、40 um。笑)でも鮮明になる。Hoechstで染色(Fig. 3)。
  • Iodixanol溶液を用いて屈折率を1.33から1.41に上昇させることにより、プラナリアの体細胞の像が深部(とは言っても、80 um。笑)でも鮮明になる。RedDot2で染色(Fig. 4)。

今回やられている実験系で適切に毒性のアッセイができているのかは疑問ですし、イメージングデータの例数はごく僅かで定量方法も雑、深度もぶっちゃけかなり浅いですが、まぁよくeLIFEに通ったなぁ、というのが正直な感想。それくらいin vivoで深部組織を簡易にイメージングしたいというニーズがあるのかもしれません。なお、Iodixanolは細胞内液を置換することがないのか、組織そのものが透明になるわけではないようです。あくまで外液と組織の屈折率が近づくだけ、と。

in vivoではDREADDはCNOではなくCNOの代謝産物で活性化する?

Chemogenetics revealed: DREADD occupancy and activation via converted clozapine.

Gomez JL, Bonaventura J, Lesniak W, Mathews WB, Sysa-Shah P, Rodriguez LA, Ellis RJ, Richie CT, Harvey BK, Dannals RF, Pomper MG, Bonci A, Michaelides M
Science. 2017 Aug 4;357(6350):503-507

DREADD(Designer Receptors EXCLUSIVELY ACTIVATED by Designer Drugs)は生理的に不活性なCNO(クロザピン-n-oxide)で働くことがin vitroで示されてきました。しかし、in vivoでもCNOによって活性化されているかは明らかではありませんでした。

筆者らは、in vivoではDREADDはCNOではなくその代謝産物であるクロザピンで働いている、と主張しています。根拠となるデータは以下の通り。

  • AAVでhM3DqまたはhM4Diを脳内に発現。放射性同位体で標識したCNOを腹腔内投与。脳切片を作成してシグナルを取ってもほとんど見えず。一方で、放射性同位体で標識したクロザピンを腹腔内投与すると、DREADDを発現した箇所で強いシグナルが見られた(Fig. 1 I-L)。
  • 脳の片側にGFPを、反対側にhM4Diを発現。放射性同位体で標識したCNOまたはクロザピンを静脈内投与してPETイメージング。クロザピンを投与した時のみhM4Diを打った側でシグナルが見られた(0.3-0.6nmol/kg, Fig. 2A-G)。
  • 放射性標識したCNOを静注(2-4 nmol/kg)。35-40分後に血漿を回収し、radio-HPLCにかけたところ、クロザピンの場所にCNOの1/20程度のピークが見られた。すなわち、CNOがクロザピンに代謝されていることが示唆された(Fig. S2)。
  • また、GFPまたはhM4Diを発現した個体に放射性標識したCNOを腹腔内投与し、脳をすりつぶしたものをHPLCで見たところ、GFPを打った標本ではCNOのシグナルしか見えなかったのに対し、hM4Diを打った標本ではCNOとクロザピンのシグナルが見えた(Fig. 2N-P。ってかこれFig. 1と矛盾してない?検出感度の問題?)
  • hM4DiまたはGFP側坐核に発現させたラットに対して低用量のクロザピン(0.1mg/kg)を腹腔内投与したところ、hM4Diを発現させたラットでのみ自発運動量が低下した。なお、高用量のクロザピン(1mg/kg)ではGFPの方でも自発運動量が低下した。これは、クロザピンそのものの作用であると考えられる(Fig. 3H)。

ここで注意しなければいけないのは、Fig. 3のデータからも分かる通りクロザピンは生理的に活性がある、ということです。殆どの人は2009年にRoth,Wessのグループから発表されたPNAS論文のFig. S6から、CNOは代謝されないと信じていたので、こういう論文がScience誌に載ったことによって大騒ぎしています。ただし、この論文で、「DREADDダメじゃん!」、となるのは結論を急ぎすぎです。そもそも、CNOがクロザピンに代謝されるか否かは以前から議論の的に上がっていることです(http://science.sciencemag.org/content/337/6095/646.3/)。そして、論文ごとに結論が異なっています(否定:http://www.nature.com/neuro/journal/v19/n1/full/nn.4192.html , http://www.pnas.org/content/106/45/19197.full , 肯定:http://www.eneuro.org/content/early/2016/10/13/ENEURO.0219-16.2016 , http://pubs.acs.org/doi/abs/10.1021/acschemneuro.7b00079?src=recsys&)。Doseによる違いでは説明がつかないので、何故報告によって違うのかは気になるところです。あと、代謝されたクロザピンがDREADDに結合するのであれば、Fig. 1で放射性同位体で標識したCNOを投与した時結局クロザピンと同じようなシグナルが見えて当然だと思うのですが、なんでシグナルが見えないんでしょうね。濃度が低すぎるんでしょうか(0.3-0.5nmol/kg)。例数少ないのも気になります(n =2)。

ともあれ、クロザピンでDREADDが動くこと自体はガチっぽいですね。なお、筆者たちは、今回用いたクロザピンのdoseは”subthreshold”, すなわち一般にクロザピンが行動を引き起こすのに必要なdoseに至っていないにも関わらずDREADDを活性化させるのに十分であるということを言っています。これで争いを避けているようですが、データや引用にご都合主義的な部分が垣間見えますので、おそらくここからひと悶着ありそうな気がします。笑

第二世代CUBICでがん転移したマウスを観察する

Whole-Body Profiling of Cancer Metastasis with Single-Cell Resolution

Kubota SI, Takahashi K, Nishida J, Morishita Y, Ehata S, Tainaka K, Miyazono K, Ueda HR
Cell Rep. 2017 Jul 5;20(1):236-250

全身透明化によってがんの全身転移を1細胞の解像度で観察した仕事です。内容はプレスリリースにまとまっているのでそちらを参考にしてください(ぇ
ttp://www.m.u-tokyo.ac.jp/news/admin/release_20170706.pdf

個人的に注目したいのは以下の2点です。

■新しい透明化手法、CUBIC-L/R
しれっと新しい透明化手法を開発・利用しています。脱脂用の試薬をCUBIC-L, 屈折率調節用の試薬をCUBIC-Rと名付けています。組成は以下の通り。

脱脂:10% Triton-X, 10% N-butyldiethanolamine(ちなみにもう尿素は使っていない)
屈折率調節:45% antipyrine, 30% nicotineamide(屈折率1.52, 従来は1.49)

5日で脱脂、3日で屈折率調節。脱脂が速いですね。早速自分でも試してみました。CUBIC-Lは、確かに脱脂が速い。更に、SDSと異なり、完全に脱脂を行ったあとでも、組織の機械的強度は保たれています。ただし、組織はかなり膨潤します。CUBIC-Rは、溶液の粘性は低く、若干黄色味がかっています。スクロースを用いていたCUBIC-2では組織が若歪んでしまっていた印象がありますが、こちらの方が組織が綺麗なような(浸透圧の問題)?

■血管染色
α-SMA-FITCを使っています。糖鎖に結合するレクチンは基本的には透明化に弱いので、動脈だけを染めている模様。自分の血管染色法を紹介したいところです。笑

シーケンシングで個々のニューロンの投射先を一挙に調べる

High-Throughput Mapping of Single-Neuron Projections by Sequencing of Barcoded RNA

Kebschull JM, Garcia da Silva P, Reid AP, Peikon ID, Albeanu DF, Zador AM.
Neuron. 2016 Sep 7;91(5):975-87.

一般的な順行性トレーサーは、特定の領域に存在するニューロン全体の投射先を知ることはできても、個々のニューロンがどのように投射しているのかを知ることはできませんでした(Allenの脳地図とか)。一方で、単一ニューロン標識は例数を稼ぐのが大変です。そこでZadorらは、特定の領域内に存在する個々のニューロンの投射先を一挙に解析する手法を確立しました。用いたのは、なんとシーケンシング。基本的なアイデアは以下の通り(Fig. 2)。

  • 30塩基のDNAライブラリをsindbisウイルス(高い発現量を持つ)にパッケージング。で、特定の領域にインジェクション。一個のニューロンにだいたい一個のウイルスが感染。個々の塩基の並びをあたかも『バーコード』のように取り扱うことで、これを発現する細胞のIDとして利用することができる。なお実際は、このようなバーコード配列にはMAPP-nλ結合配列(boxB, 後述)が連結している。また、sindbisウイルスはMAPP-nλ(後述)とGFPも発現する。
  • 特定の配列(boxB)を認識してRNAに結合するタンパク質と軸索に移行するタンパク質の融合タンパク質(MAPP-nλ)を用いて『バーコード』RNAを軸索まで十分量移行。
  • 投射先領域の切片からRNAシーケンシングを行い、どのバーコードが存在していたかを調べることによって、個々のニューロンがどこに投射していたのかを知ることができる。

Brainbowに発想を得たんだそうです。蛍光タンパク質の組み合わせよりも、塩基を組み合わせた方が自由度が高いことに気付いてこうなったんだとか。天才の発想ですね。ただ、もちろん問題点はあります。主なものは以下の通り。

  1. 一つのニューロンに複数のバーコード配列が入ってしまう(Fig. 3A)
  2. 複数のニューロンに同じバーコード配列が入ってしまう(Fig. 3C)

1個めの問題については、ウイルスの力価と量を調製すればおおよそ1つのニューロンに1つのバーコードを発現させられるようになるんだとか(Fig. 3B)。2個めの問題については、バーコードの数が感染するニューロン数より多いから大丈夫だと言っています(Fig. 3F)。ちょっとキナ臭いけど。笑

で、実際にこの系がワークすることはFig. 4で示されています。ちょっと前の論文ですが、bioRxivにこの手法を使っていた論文が上がっており(Mrsic-FlogelとZadorの共著、figの体裁的にNature?)、そういえばこの画期的な手法をブログで紹介してなかったなぁということで。

NeuroTrace 500/525によってペリサイトをin vivo標識できる

A fluoro-Nissl dye identifies pericytes as distinct vascular mural cells during in vivo brain imaging

Eyiyemisi C Damisah, Robert A Hill, Lei Tong, Katie N Murray & Jaime Grutzendler
Nature Neuroscience, 2017, AOP, May 15

血液脳関門は様々な細胞種からなります。その中の一つ、ペリサイトをin vivoで標識できるようになったよ、というお話。使っているのは、固定後の標本ではニューロンを特異的に染色すると言われているNeuroTrace 500/525。主要な結果としては以下の通り。

  • NeuroTrace 500/525をin vivoで局所投与すると、血管(Texas Red Dextran静注)に隣接した、ペリサイトっぽいヤツらが染まる。こいつらはSR101で染まらないからアストロサイトではない(Fig. 1)。
  • このポピュレーションはPdgfrb-cre::R26-Cag-TdTomato(ペリサイトと平滑筋にtdtomatoを発現)の一部を為す(Fig. 2)
  • このポピュレーションはSMA-mCherry(平滑筋)とはオーバーラップしない(Fig. 5)

ちなみに、他のNeuroTrace類縁体では染められないらしいです。何故ペリサイトが染まるのかは不明ですが、何かしら特殊な取り込み機構があるんだろうとのディスカッションでした。色素で染められるようになったから色んな遺伝子改変マウスと組み合わせたりできて良いよね、だそうな。

4.5×4.5=??

Iterative expansion microscopy

Jae-Byum Chang, Fei Chen, Young-Gyu Yoon, Erica E Jung, Hazen Babcock, Jeong Seuk Kang, Shoh Asano, Ho-Jun Suk, Nikita Pak, Paul W Tillberg, Asmamaw T Wassie, Dawen Cai & Edward S Boyden
Nature Methods (2017), Published online 17 April 2017

SfN 2016で×20と×100の次世代型ExMが報告されており(従来は×4.5)、どうやって実装しているのか気になっていたのですが、×20の方の論文がNat Methに出ました。答えは、『拡張できるゲルに標識部位を架橋した上で、拡張を妨げている構造を壊してゲルを広げる過程を、2回やる』だそうです。シンプルなように聞こえますが、実装は意外と難しい。一回目の拡張で伸びきっているゲルの構造を、どうやってさらに拡張させるのでしょうか?

ポイントは架橋剤にあります。一回目の拡張時に、通常のビスアクリルアミドではなく、pH依存的に開裂する架橋剤、DHEBA*1を用いています。一方で、二回目のゲル形成には通常の架橋剤、ビスアクリルアミドを用いています。そして、二回目の拡張時、pHを変化させることでDHEBAを開裂させ、一回目に形成したゲルを壊す、というわけです。こんなことできるんですね。架橋可能なオリゴヌクレオチドを用いた抗体標識部位のハイブリダイゼーションによる保存が、2回目の拡張でも利用可能なところもポイントです。

SfNで発表されていた×100は更に別の架橋剤を用いているんですかね。こんな物性を持つ化合物があることを知りさえしませんでしたが、こういう分野の知識もあった方が色々とアイデアが生まれてきそうですね。

*1:N,N′-(1,2-dihydroxyethylene) bisacrylamide。通常のビスアクリルアミドは正しくはN,N'-メチレンビスアクリルアミド。つまりメチレンにアクリルアミドがNで2個くっついてる構造。DHEBAはメチレンではなくエチレンにアクリルアミドが2個1,2でくっついていて、水酸基も2個1,2でくっついてる。このジオール構造が開裂しやすい。

RNA染色のための組織透明化

Multiplexed Intact-Tissue Transcriptional Analysis at Cellular Resolution

Emily Lauren Sylwestrak, Priyamvada Rajasethupathy, Matthew Arnot Wright, Anna Jaffe, Karl Deisseroth
Cell 2016, 164(4), 792-804

CLARITYの架橋にはPFAとアクリルアミドを用いているんですが、この架橋方法、実は熱に弱いのだそうです。タンパク質は保持できても、核酸の保持には向いてないとのこと。そこで、Deisserothのグループは新たな架橋方法を開発しました。あと染色について色々と条件検討をしているようです。

  • EDC(1-Ethyl-3-3-dimethyl-aminopropyl carbodiimide)はRNAのリン酸部位を架橋する。この固定剤はRNA保持能を上昇させるが脱脂の速度を大幅には低下させない。
  • 蛋白質ベースのプローブより核酸ベースのプローブの方が組織への浸透が速い
  • チラミドによるシグナルの増幅はサンプルの表面のみにしか有効でないが、Hybridization Chain Reactionによるシグナルの増幅は組織深部に対しても有効である(ヘアピン構造を取る核酸に基づいたプローブが、標的配列に出会った時に開裂する。開裂することによって更に別のヘアピン構造を開裂できるようになる。これが連鎖して起こることにより、シグナルが~200倍に増幅させられる)

2013年の最初のCLARITY論文はISHも普通にできるような印象を与えるものだったので、若干のマッチポンプ感は否めませんが、面白い論文でした。条件検討について赤裸々に書いてくれていたので、ブログには書きませんが参考になることも多かったです。余談ですが、今回透明化には電気泳動は用いられておらず、全部浸透によって行われています。電気泳動は再現性が低いとの悪評があるのですが、本家でも使われていないということは、やはりそういうことなんだろうなぁという印象。