Mのメモ

神経科学を専攻する大学院生の論文メモ。誤り等あればご指摘頂けますと幸いです。

論文に登場したマウスお絵かき傑作選

1. Alhadeff et al., Cell (2018)
A Neural Circuit for the Suppression of Pain by a Competing Need State
f:id:tak38waki:20180326182022j:plain
そこはかとない欧米感


2. Partridge, Front. Pharmacol. (2015)
Utilizing GCaMP transgenic mice to monitor endogenous Gq/11-coupled receptors
f:id:tak38waki:20180326183521j:plain
ネズミ…?


3. Feinberg et al., Nature (2015)
Orientation columns in the mouse superior colliculus

まずはFig 1
f:id:tak38waki:20180326182121j:plain

続いてExtended data 1
f:id:tak38waki:20180326182142j:plain



4. Nashaat et al., eNeuro (2017)
Pixying Behavior: A Versatile Real-Time and Post Hoc Automated Optical Tracking Method for Freely Moving and Head Fixed Animals
f:id:tak38waki:20180326182158j:plain



5. Jouhanneau et al., Neuron (2014)
Cortical fosGFP Expression Reveals Broad Receptive Field Excitatory Neurons Targeted by POm
f:id:tak38waki:20180326182212j:plain



6. Tervo et al., Cell (2014)
Behavioral Variability through Stochastic Choice and Its Gating by Anterior Cingulate Cortex
f:id:tak38waki:20180326182225j:plain

後輩のI氏はこのfigを見ながらこれを思い出していたらしい


番外編. Graziano et al., Neuron (2002)
The Cortical Control of Movement Revisited
f:id:tak38waki:20180326182306j:plain
定番。

GCaMP7(A317Lとは?)

jGCaMP7 cultured neuron data

Unpublished, Douglas Kim and Colleagues

論文ではありませんが、JaneliaのGENIEがGCaMPの新シリーズを出しているようですのでご紹介。jGCaMP7。全部で4種類。

  • jGCaMP7s - sensitive detection of activity
  • jGCaMP7f - more sensitive replacement for GCaMP6f
  • jGCaMP7b - higher baseline fluorescence, for imaging small structures (neurites)
  • jGCaMP7c - very low baseline fluorescence, for wide-field imaging

培養ニューロンでの基礎データはこちら(タイトルのリンク先、一番下のPDFより)。
f:id:tak38waki:20180215004729p:plain

プラスミドはAddgeneで購入可能。AAVはまだ。
https://www.addgene.org/browse/article/28192237/


どういう改変を入れたかについての説明書きはGENIEのページには無いのですが、Addgeneのページでタンパク質の別名を見たところ、以下のようにありました。

  • jGCaMP7s:GCaMP3-A52V K78H T302L R303P A317L D380Y T381R S383T R392G
  • jGCaMP7f:GCaMP3-T302L R303P A317L D380Y
  • jGCaMP7b:GCaMP3-T302P R303P A317L M374Y D380Y T381R S383T R392G
  • jGCaMP7c:GCaMP3-L59Q E60P T302L R303P M378G K379S D380Y T381R R392G T412N

参考までに、GCaMP6シリーズとGCaMP5Gの別名をば。

  • GCaMP6s: GCaMP3-K78H T302L R303P D380Y T381R S383T R392G
  • GCaMP6m: GCaMP3-T302L R303P M378G K379S D380Y T381R S383T R392G
  • GCaMP6f: GCaMP3-T302L R303P A317E D380Y T381R S383T R392G
  • GCaMP5G: GCaMP3-T302L R303P D380Y

つまり、やったことはこういうことみたいです。

  • jGCaMP7s: GCaMP6sにA52V A317Lを追加
  • jGCaMP7f: GCaMP5GにA317Lを追加
  • jGCaMP7b: GCaMP6sからK78Hを抜いてA317L M374Yを追加
  • jGCaMP7c: GCaMP6mからS383Tを抜いてL59Q E60P T412Nを追加


個人的に特に興味深いのはjGCaMP7fで、GCaMP6シリーズの開発で見つけた変異を全部無視し、GCaMP5GにA317Lという、一個の変異を入れることでここまで驚異的な進歩を生み出しています。

GCaMP6論文に記述があったのですが、A317はM13–CaMが相互作用する場で、Caへの親和性に影響するとのこと。GCaMP6シリーズの開発でもここは検討の対象になっており、実際6fでA317Eという変異が入っているわけですが、何故このA317Lという変異が見落とされていたのかは謎。

jGCaMP7s, f, bで採用されているこの変異が一番のブレイクスルーだと思われます。A52V、L59Q、E60PはcpEGFPの残基。ベースの蛍光を落とすのに役立ってるのでしょう。M374YとT412NはCaMの残基。



PS
そもそもGCaMPってどういう原理で動いてるの?という方はコチラの記事もご参照ください
http://tak38waki.hatenablog.com/entry/2014/04/29/033013

Arcはウイルス様のカプシドを形成してmRNAを細胞間輸送する(かも)

The Neuronal Gene Arc Encodes a Repurposed Retrotransposon Gag Protein that Mediates Intercellular RNA Transfer

Cell, 172(1-2), 275-288.e18
Pastuzyn ED, Day CE, Kearns RB, Kyrke-Smith M, Taibi AV, McCormick J, Yoder N, Belnap DM, Erlendsson S, Morado DR, Briggs JAG, Feschotte C, Shepherd JD.

Arcと言えば「神経活動依存的に発現する遺伝子」というイメージが強いかと思います。その都合の良い性質から、神経活動を調べるためのツールとして応用されることが多いため、Arc神経科学者お気に入りの遺伝子の一つになっていると言えるでしょう。一方で、タンパク質としてのArcの機能も盛んに研究されており、例えば、活動の弱いシナプスに集積してGluA1のエンドサイトーシスに関わる(Okuno et al., 2012)とか、他にも色々なことが提唱されています。今回紹介する論文は、これらとは別の、まったく新しいArcの機能を示唆するものです。

今回Shepherdらのグループは、Arcタンパク質はmRNAを包んだウイルスのようなカプシドを形成できることを示しました。そして、このカプシドは細胞外小胞(以下EV)に包まれてニューロンから細胞外へ放出されることにより、細胞間でmRNAの輸送を行いうる、という説を主張しています。根拠となる主なデータは以下の通り。

  • ArcはレトロウイルスのGag(カプシドタンパク質をコードする遺伝子)と似た配列を含んでいる。そこで、Arcもウイルスのカプシドのような構造を形成するか調べるため、何の配列も付加していない状態のラット由来Arc(prArc) 2 mg/mLを負染色電顕またはクライオ電顕によって観察した。結果、直径32 nm程のウイルスのカプシド様の構造が観察された(Fig. 1B)。このことから、Arcもウイルスのカプシドのように核酸を運べる可能性が考えられる。
  • Arcタンパク質が核酸を包んでいるかを検討するため、大腸菌から精製したprArc溶液から、ArcasnAバクテリアに豊富に存在)のmRNAについてqRT-PCRを行ったところ、どちらのmRNAも確認された。Arcの1/15倍量のmRNA量を持つasnAは、Arcの1/10倍だった(Fig. 2A)。このことから、prArcはmRNAに結合すること、とくにその場に多いものに結合する可能性が考えられる。また、これらのmRNAはRNAse処置によって無くならず、カプシドの中で守られていると考えられる。なお、prArc精製前に核酸を取り除く操作を行うと、prArcのカプシド構造は観察されなくなった。このことから、カプシド形成には核酸が必要である可能性が考えられる(Fig. 2E)。
  • レトロウイルスのカプシドは、EVと似たような機構で細胞から放出される。もしArcがレトロウイルスのように細胞外へと放出されるのであれば、EVと一緒に取れてくる可能性が考えられる。そこで、実際にニューロンからArcが放出されるかを検討するため、培養マウス皮質ニューロンのEV画分を超遠心機を用いて分離したところ、ウェスタンでArcタンパク質が確認された(Fig. 3D)。また、EV画分をqRT-PCRにかけたところ、ArcのmRNAが検出された(Fig. 3E)。更に、EV画分についてArcを免疫金標識して電顕で観察したところ、EVの14%がArcポジティブだった(Fig. 3F)。このことから、vivoではEVに包まれた状態のArcタンパク質およびmRNAが存在していることがわかる。
  • 放出されたArcがmRNAを他のニューロンに輸送しうるか検討するため、Arc KOマウス由来の培養ニューロンにWT由来のEVを処置した。処置1時間後のサンプルからはArcタンパク質シグナルの上昇が見られ、4時間後のサンプルからはmRNAの上昇が見られた(Fig. 6)。このことから、EVがArcタンパク質を介してArc mRNAを輸送している可能性が考えられる(にしてもタイムコース遅いですね)。
  • 輸送されたArc mRNAが輸送先で転写されるか検討するため、Arc KOマウス由来の培養ニューロンにWT由来のEVを処置後、Arcの転写を促進することが知られているDHPG(nGluR1/5アゴニスト)を処置した群としなかった群でArcタンパク質量を免染の蛍光強度で定量したところ、処置群の方で有意に高い蛍光強度が見られた(Fig. 7B)。このことから、輸送されたArc mRNAがDHPG依存的に転写されたことが示唆される。

他にも、Arcのカプシド形成および細胞間mRNA輸送に必要なドメインの同定とかもやっています。筆者らは、今回見られたようなArcのカプシドを、”Arc Capsids Bearing Any RNAs”を略してACBARsと呼ぶことにしたようです。我々にとって親しみ深いArcにこのような側面が隠れていたとは、驚きです。

ただ、データの細かいところを見ると、色々と気になるところはあります。例えば、上では扱いませんでしたが、Fig. 4は、融合タンパク質でも本当にカプシドができるのか?とか、プラスミドとトランスフェクション試薬が培地にちょっとでも残ってたら同じ結果が出るんじゃないか?とか、定量データが無いけど再現性はあるのか?とか。あと、Fig. 5以降のデータは、タンパク質とかmRNA量の指標として、KOニューロンで検出された蛍光強度のfold changeで出しています。KOでは本来何も検出されないはずなので、ここで出ている数値をどう解釈したらいいのかはよくわからないです。

それと、これはふつうに面白いなと思った点ですが、Fig. 5とか7AではprArcを培養Arc KOニューロンにぶっかけることでArcタンパク質やmRNAが検出されるようになるということを言っています。つまり、EVに包まれてない、いわば剥き出しのカプシドでも細胞内に入って行けちゃう、というデータです。詳しいメカニズムは不明ですが、これってどんなmRNAでもArcカプシドに包むだけでニューロンに導入できちゃうってことなんですかね?もしそうなら、毒性低そうだし、比較的簡単に調整できそうなベクターで、応用効きそうな感じもしますね。

注意したいところですが、本論文中ではvivoでもカプシドが形成されているのか、EVの中にArcの「カプシド」が含まれているのか(免疫金標識じゃ見えない理由ってあるんだろうか…?)、カプシドがvivoでもしあったとして、EVに包まれないと細胞外へと放出されないのか、ということまでは示されていません。この辺は今後何らかの方法で検討されていくのではないかと思われます。

なお、これと一緒に出たThomson, Budnikらのグループからの論文では、ハエのArcホモログdArc1が神経筋接合部のシナプス間を移動しうると主張されています。中枢ではないですが、だからこそ、プレとポストが異なる細胞種由来であることを利用して、細胞種特異的な操作を行うことにより、vivoの系でも同様の現象っぽいものを見ることが可能になっているという点は特筆すべきかと思います。また、EV内に含まれるmRNAの網羅的な解析をして、dArc1の量が一番多いことを示しており、この論文も読み応えがありました。

著者らの主張が正しかったとして、Arcカプシドによって運ばれるArcが輸送先で何をしているのか、とか、Arc以外にはどのようなmRNAを運ぶのか、とか、運ばれるものの内容は状況によって異なるのか、とかが気になりますね。Arcって活動の弱いスパインに集積してるイメージがあるんですけど、「お前は俺と結合してる中では相対的に弱い方だぞ」、的な情報をプレシナプスにフィードバックしているんでしょうか。そうだったとしたら何のmRNAを送って、何をやらせるんでしょうか。妄想が膨らみます。笑

GlyoxalはPFAに取って代わる固定剤となる…のか…?

Glyoxal as an alternative fixative to formaldehyde in immunostaining and super‐resolution microscopy

The EMBO Journal (2017) e201695709, DOI 10.15252/embj.201695709
Richter KN, Revelo NH, Seitz KJ, Helm MS, Sarkar D, Saleeb RS, D'Este E, Eberle J, Wagner E, Vogl C, Lazaro DF, Richter F, Coy-Vergara J, Coceano G, Boyden ES, Duncan RR, Hell SW, Lauterbach MA, Lehnart SE, Moser T, Outeiro T, Rehling P, Schwappach B, Testa I, Zapiec B, Rizzoli SO.

組織の固定によく用いられるPFAは、実は毒性高いとか標本の形態が微妙に変わるとかいう問題を抱えています。そこで別の選択肢としてグルタルアルデヒド等があるわけですが、そいつらも一長一短。例えばグルタルアルデヒドは、浸透性が低いとか架橋が強すぎるとか自家蛍光が強いとかいう問題があります。筆者らは、これらの問題を解決しつつ、簡単に手に入る固定剤を探しました。

行きついたのがGlyoxal。最も簡単な構造のジアルデヒドです。Fig. 16を見る感じ、PFAの上位互換というよりは、固定する対象によってはPFAより良いこともある、という感じ。PFAより良い点として、浸透が速い(fig. 1)とか形態の変化が少ない(Fig. 2)とかタンパク質の固定力が強い(Fig. 3)とかを挙げていますが、それぞれ根拠となるデータは、PIが細胞内に入っていく時間が速い(Fig. 1)とか、培養細胞の形態変化が少ない(FIg. 2)とか、細胞の破砕液に固定剤を加えた後にSDS-PAGEしてみた時のバンドが濃い(Fig. 3)とか。Fig. 2は良さそうですが、Fig. 1, 3は、このデータでそれが言えているのか疑問です。まぁ、見たいタンパク質がPFA固定して免染で染まらない時は、試してみるのもありなのかな、というくらいの受け取り方で良いと思います。

気になる組成は以下の通り。4 mLの固定剤を調整するのに…

  • 40% グリオキサール...0.313 mL
  • エタノール...0.789 mL
  • 酢酸...0.03 mL
  • DDW...2.835 mL
  • NaOH...pH 4-5になるまで

固定した後はNH4Clとグリシンでクエンチしてます。エタノール添加とか低いpHを加える理由については、この条件だと固定前後での形態の保存がいいんだとか(Supple Table 1)。こんだけpH低いと蛍光タンパク質の消光が気になるところですね(ちなみにpHはpH試験紙で調整したとか書いてありました)。ちょっと試してみようと思うのですが、TwitterでGlyoxalを検索するとPFAの方が良いわ的なツイートが多いので、あまり過度に期待しない方が良さそうな予感もします。笑

in vitro”血管”を用いてズリ応力依存的に血管の浸潤性が変化する分子基盤を解明

A non-canonical Notch complex regulates adherens junctions and vascular barrier function

William J. Polacheck, Matthew L. Kutys, Jinling Yang, Jeroen Eyckmans, Yinyu Wu, Hema Vasavada, Karen K. Hirschi & Christopher S. Chen
Nature, doi:10.1038/nature24998

血流のShear Stress(ズリ応力)は血管の浸潤性を変化させることが知られています。しかし、その分子基盤は明らかではありません。そこで今回筆者らは、in vitroでシンプルな”血管”を再現し、そこにマイクロ流体デバイスをつないで任意のズリ応力をかけられる系を作成し、これを検討しました。結果、Notch1が、普通に知られているようなシグナル経路とは異なる働き方で関わっていることが明らかになりました。データは以下の通り。

  • 細胞外基質で囲まれた空洞内にヒト由来の血管内皮細胞を配置。ペリサイトなどに包まれてはいないものの、シンプルなin vitro”血管”, hEMVを作成。これをマイクロ流体デバイスに結合。hEMVは流れが無いと浸潤性が高いが、流れがあると浸潤性が低く、vivoの血管を模している(蛍光デキストランで確認, Fig. 1a-c)。また、ズリ応力によって発現が上がるとされるNotch1やそのリガンドのDll4等の遺伝子が実際に上がっている(Fig. 1d)。
  • Notch1の細胞内ドメインICDの切断に関わるγセクレターゼをDAPTで阻害すると浸潤性は上がる。また、リコンビナントDll4を処置すると流れが無くても浸潤性は下がる。このことから、Notch1が血管の浸潤性に関わっていることが示唆される(fig. 1f)。
  • 通常、Notch1のシグナルは転写因子として働く。そこで、転写因子co-factorであるMastermindのドミナントネガティブ体dnMAMLを発現する細胞でhEMVを作成した。狙い通りNotch依存的な転写は抑えられたが(Extended data fig 3e), 血管の浸潤性には影響がなかった(Fig. 1i)。このことから、Notch1は血管の浸潤性を低くすることに関わるが、それは既知のシグナル経路を介していないことが示唆される。
  • Notch1の細胞内ドメインICD、またはICDと膜貫通ドメインTMD両方のtruncation mutantを持つ細胞をCRISPR/Cas9で作ってhEMVを作成。ICDだけ短くした方は低い浸潤性を持つ一方で、ICDとTMDの両方を短くした方は高い浸潤性を持っていた(Fig. 2b-d)。また、Notch KOの細胞にTMDを発現させた細胞でも浸潤性の低下は見られた(Fig. 2e-g)。このことから、NotchのTMDが単体で存在することが浸潤性の低下に重要であることが示唆される。なお、TMDはVE-カドヘリンと共局在する。
  • Notch1 KOやDAPT処置された内皮細胞はRac1の活性が落ちるがTMDを発現させるとレスキューされる(Fig. 3c-f)。Rac1はcortical actinの重合を通じて内皮細胞の接着結合を強化することが知られている。
  • ではNotch1とRac1はどうやって相互作用するのか?これを調べるために、Notch1と相互作用するVEカドヘリンをWTとNocth1 KOでCo-IPしたところ、VEカドヘリン結合パートナーのうち、膜貫通チロシンホスファターゼLARの量だけが落ちていることがわかった(Extended Data Fig. 8)。なお、LARはRac1のGEFであるTrioと相互作用することが知られている。
  • VEカドヘリンは切られていないNotch1とも結合するが、この際LARとはあまり相互作用しない。Nocth1のICDが切られることによってVEカドヘリンとLARの相互作用が上昇する(Fig. 3h)。

以上のデータと、ここでは紹介しませんが膨大な量の傍証から、ズリ応力に依存したNotch1の活性化・ICDの切断が、VE-カドヘリンとLARの相互作用を促進し、Trioの膜近傍への局在化とRac1の活性化、cortical actinの重合を通じて内皮細胞の接着結合を強化することで、浸潤性を低くしていることが示されました(Extended Data Fig. 9)。

独自の系の強みを最大限活かし、Notchというメジャーな分子の通常とは異なる働き方、という意外な事実を、目で見てわかるほどはっきりとした結果で示しているという点で、強く印象に残る仕事でした。

毒性の少ない(?) Iodixanolでin vivo深部イメージングが可能に?

A tunable refractive index matching medium for live imaging cells, tissues and model organisms

eLife 2017;6:e27240 DOI: 10.7554/eLife.27240
Boothe T, Hilbert L, Heide M, Berninger L, Huttner WB, Zaburdaev V, Vastenhouw NL, Myers EW, Drechsel DN, Rink JC

光の散乱を抑えるためには、標本とそれを浸す溶液の屈折率を揃えることが肝要です。ただし、これまで3DISCO, CLARITY, Scale, CUBIC 等, in vitro標本透明化で用いられてきた屈折率調製溶液(RI=1.45~1.52くらい)は、毒性があったり浸透圧が高かったりでin vivo標本への適用は困難でした。

著者らは、屈折率増分の高い化合物であるIodixanolは、毒性・浸透圧への影響が少なく、in vivo標本に適用可能であるということを主張しています。根拠となるデータは以下の通り。

  • Iodixanolは溶媒の屈折率を濃度依存的に、線形に上昇させる。60% Iodixanol溶液のRIが大体1.43。なお、水は1.33程度(Fig. 1a)。
  • 50% Iodixanolの浸透圧はPBSより低い(Fig. 1f)。
  • 30% Iodixanol を含む培地でもHeLaは3日間は正常に増殖する。また、20% Iodixanol を含む水の中でも受精卵から発生したゼブラフィッシュは正常な体長を持ち、生存率も正常。更に、50% Iodixanolを含む水の中でもプラナリアは3週間生き残る(Fig. 2)
  • Iodixanol溶液を用いて屈折率を1.33から1.36に上昇させることにより、オルガノイドを構成する細胞の像が深部(とは言っても、40 um。笑)でも鮮明になる。Hoechstで染色(Fig. 3)。
  • Iodixanol溶液を用いて屈折率を1.33から1.41に上昇させることにより、プラナリアの体細胞の像が深部(とは言っても、80 um。笑)でも鮮明になる。RedDot2で染色(Fig. 4)。

今回やられている実験系で適切に毒性のアッセイができているのかは疑問ですし、イメージングデータの例数はごく僅かで定量方法も雑、深度もぶっちゃけかなり浅いですが、まぁよくeLIFEに通ったなぁ、というのが正直な感想。それくらいin vivoで深部組織を簡易にイメージングしたいというニーズがあるのかもしれません。なお、Iodixanolは細胞内液を置換することがないのか、組織そのものが透明になるわけではないようです。あくまで外液と組織の屈折率が近づくだけ、と。

in vivoではDREADDはCNOではなくCNOの代謝産物で活性化する?

Chemogenetics revealed: DREADD occupancy and activation via converted clozapine.

Gomez JL, Bonaventura J, Lesniak W, Mathews WB, Sysa-Shah P, Rodriguez LA, Ellis RJ, Richie CT, Harvey BK, Dannals RF, Pomper MG, Bonci A, Michaelides M
Science. 2017 Aug 4;357(6350):503-507

DREADD(Designer Receptors EXCLUSIVELY ACTIVATED by Designer Drugs)は生理的に不活性なCNO(クロザピン-n-oxide)で働くことがin vitroで示されてきました。しかし、in vivoでもCNOによって活性化されているかは明らかではありませんでした。

筆者らは、in vivoではDREADDはCNOではなくその代謝産物であるクロザピンで働いている、と主張しています。根拠となるデータは以下の通り。

  • AAVでhM3DqまたはhM4Diを脳内に発現。放射性同位体で標識したCNOを腹腔内投与。脳切片を作成してシグナルを取ってもほとんど見えず。一方で、放射性同位体で標識したクロザピンを腹腔内投与すると、DREADDを発現した箇所で強いシグナルが見られた(Fig. 1 I-L)。
  • 脳の片側にGFPを、反対側にhM4Diを発現。放射性同位体で標識したCNOまたはクロザピンを静脈内投与してPETイメージング。クロザピンを投与した時のみhM4Diを打った側でシグナルが見られた(0.3-0.6nmol/kg, Fig. 2A-G)。
  • 放射性標識したCNOを静注(2-4 nmol/kg)。35-40分後に血漿を回収し、radio-HPLCにかけたところ、クロザピンの場所にCNOの1/20程度のピークが見られた。すなわち、CNOがクロザピンに代謝されていることが示唆された(Fig. S2)。
  • また、GFPまたはhM4Diを発現した個体に放射性標識したCNOを腹腔内投与し、脳をすりつぶしたものをHPLCで見たところ、GFPを打った標本ではCNOのシグナルしか見えなかったのに対し、hM4Diを打った標本ではCNOとクロザピンのシグナルが見えた(Fig. 2N-P。ってかこれFig. 1と矛盾してない?検出感度の問題?)
  • hM4DiまたはGFP側坐核に発現させたラットに対して低用量のクロザピン(0.1mg/kg)を腹腔内投与したところ、hM4Diを発現させたラットでのみ自発運動量が低下した。なお、高用量のクロザピン(1mg/kg)ではGFPの方でも自発運動量が低下した。これは、クロザピンそのものの作用であると考えられる(Fig. 3H)。

ここで注意しなければいけないのは、Fig. 3のデータからも分かる通りクロザピンは生理的に活性がある、ということです。殆どの人は2009年にRoth,Wessのグループから発表されたPNAS論文のFig. S6から、CNOは代謝されないと信じていたので、こういう論文がScience誌に載ったことによって大騒ぎしています。ただし、この論文で、「DREADDダメじゃん!」、となるのは結論を急ぎすぎです。そもそも、CNOがクロザピンに代謝されるか否かは以前から議論の的に上がっていることです(http://science.sciencemag.org/content/337/6095/646.3/)。そして、論文ごとに結論が異なっています(否定:http://www.nature.com/neuro/journal/v19/n1/full/nn.4192.html , http://www.pnas.org/content/106/45/19197.full , 肯定:http://www.eneuro.org/content/early/2016/10/13/ENEURO.0219-16.2016 , http://pubs.acs.org/doi/abs/10.1021/acschemneuro.7b00079?src=recsys&)。Doseによる違いでは説明がつかないので、何故報告によって違うのかは気になるところです。あと、代謝されたクロザピンがDREADDに結合するのであれば、Fig. 1で放射性同位体で標識したCNOを投与した時結局クロザピンと同じようなシグナルが見えて当然だと思うのですが、なんでシグナルが見えないんでしょうね。濃度が低すぎるんでしょうか(0.3-0.5nmol/kg)。例数少ないのも気になります(n =2)。

ともあれ、クロザピンでDREADDが動くこと自体はガチっぽいですね。なお、筆者たちは、今回用いたクロザピンのdoseは”subthreshold”, すなわち一般にクロザピンが行動を引き起こすのに必要なdoseに至っていないにも関わらずDREADDを活性化させるのに十分であるということを言っています。これで争いを避けているようですが、データや引用にご都合主義的な部分が垣間見えますので、おそらくここからひと悶着ありそうな気がします。笑