Mのメモ

神経科学を専攻する大学院生の論文メモ。誤り等あればご指摘頂けますと幸いです。

ChloC

Conversion of Channelrhodopsin into a Light-Gated Chloride Channel
Jonas Wietek, J. Simon Wiegert, Nona Adeishvili, Franziska Schneider, Hiroshi Watanabe, Satoshi P. Tsunoda, Arend Vogt,Marcus Elstner, Thomas G. Oertner, Peter Hegemann
Science, online 27 March 2014

 

slowChloCはArchと何が違ってどう良いのか?

Cl-を通す改変ChR, slowChloCが出ていました。即ち抑制用のChRです。「え、Archがあるから別にいらなくね?」と思うところですが、

  • Archはポンプ
  • slowChloCはチャネル


と いう違いがあります。そして、ポンプは一回の照射でひとつの電荷しか通さないので、過分極による十分な抑制をもたらすには強力な照射を必要 とします。また、チャネルはポンプと異なり、特定の変異を入れれば開きっぱなしにすることができます。つまり具体的にはどうなるかというと、


  1. 活性化に必要な照射強度が少なくて済むので、広範囲を制御可能
  2. 一回の照射で開きっぱなしにすれば、更に弱い照射でも活性化できるだけでなく、行動試験への利用にも向いている
  3. 過分極による抑制でなくシャンティングによる抑制を行う、ので、GABA受容体の反転電位にほとんど影響しない(たぶん)


という大きな利点が、光遺伝学による神経活動の抑制操作にもたらされることとなりました。



どう作ったのか?

これが面白いのですが、なんと単一の点変異(E90KまたはR)をChRに入れるだけでCl-を選択的に通すようになるとのことです。どうやって目星をつけ たのか。ChRのE90は、光を感知するレチナールが持つシッフ塩基(超リアクティブな官能基)によって、光が当たるとプロトン化されることで、他の残基 と相互作用することでイオン選択性や通過にクリティカルな役割を果たしていることがわかっていました(詳細は省略)。そこで、これを常にプロトン化されて いるであろうリシンと置換、HEKに導入して、イオンの選択性がどのように変わるのか見ています。で、以下のようなことがわかりました。


  • 光照射時の電流を計測すると、細胞外液のpHが高いときより低いときの方が電流変化が大きい。しかし、反転電位は殆ど変化しない=プロトンを通しているわけではない(Fig. 2D)。
  • 細胞外液からCl-のほとんどをAsp-に置換すると、反転電位が大きく変化する=Cl-を通している(Fig. 2D)。




※ 具体的なフィルター構造がどうなってて、どう変化したのかというのもMDシミュレーションによって示されていて、面白いのですが、詳細は省きます。


K をRにかえるともっと細胞膜に局在するようになって効率的らしく、これとT159C(細胞膜への局在とレチナールの導入効率が上がる)とのダブルミュータ ントをChloCと名づけています。それにとどまらず、D156をNに置換することででSFOも作っており、これをslowChloCと名づけています。 これによってめちゃめちゃ低い照射強度で広範囲・長時間の調節が可能になったようです。


最後に培養スライスCA1にこいつらを導 入してきちんと働くことを確認しています(Fig. 4E, F)。さらに、slowChloCはArchより圧倒的に低い照射強度で神経活動の抑制を行えることが示されています(Fig. 4H)。ただ、静止膜電位が少し上がっていっているのが気になるところです(Fig. 4G)。結局発火はしないから別に問題ないのかもしれませんが。


と、いうことで、これから光で神経活動の抑制を行う実験でできることの幅が広がるんじゃないかと感じさせる研究でした。個人的には、既に解かれ た構造とシミュレーションを組み合わせることで、(網羅的な変異導入ではなく)たった一つの変異をいれるだけで、このように強力なツールが作られるとい う、ある種のスナイパー感に非常に感動しました。