Mのメモ

ポスドクの論文メモ。神経科学関連のツールに触れることが多め。

非侵襲的に脳血管内皮細胞だけに感染するAAV

A brain microvasculature endothelial cell-specific viral vector with the potential to treat neurovascular and neurological diseases

Körbelin J, Dogbevia G, Michelfelder S, Ridder DA, Hunger A, Wenzel J, Seismann H, Lampe M, Bannach J, Pasparakis M, Kleinschmidt JA, Schwaninger M, Trepel M.
EMBO Mol Med. 2016 1;8(6):609-25

さいきんカプシド蛋白質のエンジニアリングによって特定の細胞集団に感染するような新規AAVセロタイプを開発した報告が相次いでいます。これまでもプロモーターを用いて特定の細胞集団に感染させるといったことはされてきましたが、カプシド蛋白質のエンジニアリングはまた違った特異性を出すことができるため、目的によっては非常に有用になってくるのではないかと思われます。今回ご紹介するのは、静注することによって、脳血管の内皮細胞特異的に感染するセロタイプです。

  • AAV2のcapタンパク質の588-589番目のアミノ酸残基の間に7つのペプチドをランダムに挿入したライブラリを用意。自分のゲノムをパッケージするようにしてAAVを作成。静注。48時間後に脳を取り出して発現していたウイルスを回収。これを4回繰り返す。釣れてきた配列を持つウイルスにルシフェラーゼを包み、他臓器に比べて脳に発現が強いものを探す。結果、XXGXXWXを持った配列が釣れてくることがわかった。特に、NRGTEWDを持つ配列でパッケージしたものでの発現量が高かったため、今後の実験ではこれを用いた(AAV-BR1)。
  • 脳の中で特にどの細胞に発現するのか確認するため、AAV-BR1 CAG-eGFPを静注、2週間後に切片を作成して免疫染色を施した。結果、特に血管の内皮細胞に発現することが分かった。また、脊髄の血管でも発現が見られた。ただし、すべての血管に発現するわけではなく、効率は30-40%程度だった。また、少数ではあるが、ニューロンへの発現も見られた。

これまでTek-CreなどのドライバーTgを用いて脳血管に特定のタンパク質を発現させようとした時、脳を開いてウイルスを注入する方法は侵襲的であり、レポーターTgとの掛け合わせでは全身の血管に発現してしまうという欠点がありました。また、Tgを用いなければならず、スループットがWTに比べると良くないという問題もあります。一方、AAVの静注を用いると、導入タンパク質は全身の血管に発現してしまいます。今回開発された手法は、AAVの静注という侵襲性の低い操作で、脳血管だけに特定のタンパク質を発現させており、これまでの欠点をすべて解決するような手法であると言えます。ただし、すべての内皮細胞に発現するわけではなく、また少量ではありますが心臓や少数のニューロンでも発現が見られているので、まだまだ発展の余地があると思われます。