Mのメモ

ポスドクの論文メモ。神経科学関連のツールに触れることが多め。

in vivoではDREADDはCNOではなくCNOの代謝産物で活性化する?

Chemogenetics revealed: DREADD occupancy and activation via converted clozapine.

Gomez JL, Bonaventura J, Lesniak W, Mathews WB, Sysa-Shah P, Rodriguez LA, Ellis RJ, Richie CT, Harvey BK, Dannals RF, Pomper MG, Bonci A, Michaelides M
Science. 2017 Aug 4;357(6350):503-507

DREADD(Designer Receptors EXCLUSIVELY ACTIVATED by Designer Drugs)は生理的に不活性なCNO(クロザピン-n-oxide)で働くことがin vitroで示されてきました。しかし、in vivoでもCNOによって活性化されているかは明らかではありませんでした。

筆者らは、in vivoではDREADDはCNOではなくその代謝産物であるクロザピンで働いている、と主張しています。根拠となるデータは以下の通り。

  • AAVでhM3DqまたはhM4Diを脳内に発現。放射性同位体で標識したCNOを腹腔内投与。脳切片を作成してシグナルを取ってもほとんど見えず。一方で、放射性同位体で標識したクロザピンを腹腔内投与すると、DREADDを発現した箇所で強いシグナルが見られた(Fig. 1 I-L)。
  • 脳の片側にGFPを、反対側にhM4Diを発現。放射性同位体で標識したCNOまたはクロザピンを静脈内投与してPETイメージング。クロザピンを投与した時のみhM4Diを打った側でシグナルが見られた(0.3-0.6nmol/kg, Fig. 2A-G)。
  • 放射性標識したCNOを静注(2-4 nmol/kg)。35-40分後に血漿を回収し、radio-HPLCにかけたところ、クロザピンの場所にCNOの1/20程度のピークが見られた。すなわち、CNOがクロザピンに代謝されていることが示唆された(Fig. S2)。
  • また、GFPまたはhM4Diを発現した個体に放射性標識したCNOを腹腔内投与し、脳をすりつぶしたものをHPLCで見たところ、GFPを打った標本ではCNOのシグナルしか見えなかったのに対し、hM4Diを打った標本ではCNOとクロザピンのシグナルが見えた(Fig. 2N-P。ってかこれFig. 1と矛盾してない?検出感度の問題?)
  • hM4DiまたはGFP側坐核に発現させたラットに対して低用量のクロザピン(0.1mg/kg)を腹腔内投与したところ、hM4Diを発現させたラットでのみ自発運動量が低下した。なお、高用量のクロザピン(1mg/kg)ではGFPの方でも自発運動量が低下した。これは、クロザピンそのものの作用であると考えられる(Fig. 3H)。

ここで注意しなければいけないのは、Fig. 3のデータからも分かる通りクロザピンは生理的に活性がある、ということです。殆どの人は2009年にRoth,Wessのグループから発表されたPNAS論文のFig. S6から、CNOは代謝されないと信じていたので、こういう論文がScience誌に載ったことによって大騒ぎしています。ただし、この論文で、「DREADDダメじゃん!」、となるのは結論を急ぎすぎです。そもそも、CNOがクロザピンに代謝されるか否かは以前から議論の的に上がっていることです(http://science.sciencemag.org/content/337/6095/646.3/)。そして、論文ごとに結論が異なっています(否定:http://www.nature.com/neuro/journal/v19/n1/full/nn.4192.html , http://www.pnas.org/content/106/45/19197.full , 肯定:http://www.eneuro.org/content/early/2016/10/13/ENEURO.0219-16.2016 , http://pubs.acs.org/doi/abs/10.1021/acschemneuro.7b00079?src=recsys&)。Doseによる違いでは説明がつかないので、何故報告によって違うのかは気になるところです。あと、代謝されたクロザピンがDREADDに結合するのであれば、Fig. 1で放射性同位体で標識したCNOを投与した時結局クロザピンと同じようなシグナルが見えて当然だと思うのですが、なんでシグナルが見えないんでしょうね。濃度が低すぎるんでしょうか(0.3-0.5nmol/kg)。例数少ないのも気になります(n =2)。

ともあれ、クロザピンでDREADDが動くこと自体はガチっぽいですね。なお、筆者たちは、今回用いたクロザピンのdoseは”subthreshold”, すなわち一般にクロザピンが行動を引き起こすのに必要なdoseに至っていないにも関わらずDREADDを活性化させるのに十分であるということを言っています。これで争いを避けているようですが、データや引用にご都合主義的な部分が垣間見えますので、おそらくここからひと悶着ありそうな気がします。笑