Mのメモ

神経科学を専攻する大学院生の論文メモ。誤り等あればご指摘頂けますと幸いです。

in vitro”血管”を用いてズリ応力依存的に血管の浸潤性が変化する分子基盤を解明

A non-canonical Notch complex regulates adherens junctions and vascular barrier function

William J. Polacheck, Matthew L. Kutys, Jinling Yang, Jeroen Eyckmans, Yinyu Wu, Hema Vasavada, Karen K. Hirschi & Christopher S. Chen
Nature, doi:10.1038/nature24998

血流のShear Stress(ズリ応力)は血管の浸潤性を変化させることが知られています。しかし、その分子基盤は明らかではありません。そこで今回筆者らは、in vitroでシンプルな”血管”を再現し、そこにマイクロ流体デバイスをつないで任意のズリ応力をかけられる系を作成し、これを検討しました。結果、Notch1が、普通に知られているようなシグナル経路とは異なる働き方で関わっていることが明らかになりました。データは以下の通り。

  • 細胞外基質で囲まれた空洞内にヒト由来の血管内皮細胞を配置。ペリサイトなどに包まれてはいないものの、シンプルなin vitro”血管”, hEMVを作成。これをマイクロ流体デバイスに結合。hEMVは流れが無いと浸潤性が高いが、流れがあると浸潤性が低く、vivoの血管を模している(蛍光デキストランで確認, Fig. 1a-c)。また、ズリ応力によって発現が上がるとされるNotch1やそのリガンドのDll4等の遺伝子が実際に上がっている(Fig. 1d)。
  • Notch1の細胞内ドメインICDの切断に関わるγセクレターゼをDAPTで阻害すると浸潤性は上がる。また、リコンビナントDll4を処置すると流れが無くても浸潤性は下がる。このことから、Notch1が血管の浸潤性に関わっていることが示唆される(fig. 1f)。
  • 通常、Notch1のシグナルは転写因子として働く。そこで、転写因子co-factorであるMastermindのドミナントネガティブ体dnMAMLを発現する細胞でhEMVを作成した。狙い通りNotch依存的な転写は抑えられたが(Extended data fig 3e), 血管の浸潤性には影響がなかった(Fig. 1i)。このことから、Notch1は血管の浸潤性を低くすることに関わるが、それは既知のシグナル経路を介していないことが示唆される。
  • Notch1の細胞内ドメインICD、またはICDと膜貫通ドメインTMD両方のtruncation mutantを持つ細胞をCRISPR/Cas9で作ってhEMVを作成。ICDだけ短くした方は低い浸潤性を持つ一方で、ICDとTMDの両方を短くした方は高い浸潤性を持っていた(Fig. 2b-d)。また、Notch KOの細胞にTMDを発現させた細胞でも浸潤性の低下は見られた(Fig. 2e-g)。このことから、NotchのTMDが単体で存在することが浸潤性の低下に重要であることが示唆される。なお、TMDはVE-カドヘリンと共局在する。
  • Notch1 KOやDAPT処置された内皮細胞はRac1の活性が落ちるがTMDを発現させるとレスキューされる(Fig. 3c-f)。Rac1はcortical actinの重合を通じて内皮細胞の接着結合を強化することが知られている。
  • ではNotch1とRac1はどうやって相互作用するのか?これを調べるために、Notch1と相互作用するVEカドヘリンをWTとNocth1 KOでCo-IPしたところ、VEカドヘリン結合パートナーのうち、膜貫通チロシンホスファターゼLARの量だけが落ちていることがわかった(Extended Data Fig. 8)。なお、LARはRac1のGEFであるTrioと相互作用することが知られている。
  • VEカドヘリンは切られていないNotch1とも結合するが、この際LARとはあまり相互作用しない。Nocth1のICDが切られることによってVEカドヘリンとLARの相互作用が上昇する(Fig. 3h)。

以上のデータと、ここでは紹介しませんが膨大な量の傍証から、ズリ応力に依存したNotch1の活性化・ICDの切断が、VE-カドヘリンとLARの相互作用を促進し、Trioの膜近傍への局在化とRac1の活性化、cortical actinの重合を通じて内皮細胞の接着結合を強化することで、浸潤性を低くしていることが示されました(Extended Data Fig. 9)。

独自の系の強みを最大限活かし、Notchというメジャーな分子の通常とは異なる働き方、という意外な事実を、目で見てわかるほどはっきりとした結果で示しているという点で、強く印象に残る仕事でした。