Mのメモ

ポスドクの論文メモ。神経科学関連のツールに触れることが多め。

Proximity Ligation Assayを応用してLTPが起こったシナプスを組織学的・経路特異的に検出

SYNPLA: A synapse-specific method for identifying learning-induced synaptic plasticity loci
Kim Dore, Yvonne Pao, Jose Soria Lopez, Sage Aronson, Huiqing Zhan, Sanchari Ghosh, Sabina Merrill, Anthony M. Zador, Roberto Malinow, Justus M. Kebschull
bioRxiv, posted August 15, 2019, doi: https://doi.org/10.1101/473314


【概要】
プレシナプスに人工タンパク質を発現&Proximity Ligation AssayによってLTPが起こったシナプスを組織学的・経路特異的に検出できる


【背景】
神経科学の主要な魅力の一つはシナプスの可塑性ですが(主観)、可塑的な変化が起こったシナプスを捉えるのは、二光子タイムラプスイメージング等をする必要があり、骨が折れます。そんな中、ZadorのとこでMAPseqをやってたKebschellから便利そうな手法、SYNPLA(SYNaptic Proximity Ligation Assay)が報告されました。

本手法ではProximity Ligation Assay(以下PLA)を応用しています。これは異なる2分子がある程度近傍(~40 nm)にあればシグナルを出すテクニックで、概要は以下にまとまっています。
https://www.sigmaaldrich.com/technical-documents/protocols/biology/how-pla-works.html
一応PLAについてざっくり言うと:

  1. 抗原Aに対する抗体と抗原Bに対する抗体にオリゴヌクレオチド(AoまたはBo)をつけ、免染。
  2. AoとBoをブリッジする ”コネクターオリゴ” とリガーゼを加える。これにより、もしAoとBoが近傍に存在するならコネクターオリゴが環状DNAを形成する。
  3. Rolling-Circle Amplification (RCA) によってその配列をぐるぐる増幅。
  4. 形成されたrolling circle colony (rolony) をISHによって高感度にイメージング。

SYNPLAでは形成されたシナプスをPLAで検出するため、まずプレシナプスに人工的なタンパク質、myc-Nrxnを発現させています。加えて、ここが地味に重要な点ですが、一部の脳領域ではLTP刺激後15-72時間以内はGluA1がポストシナプスに挿入され、その後置換されていくことを利用しています。なお、シナプス間隙は20 nm程度なので、PLAで捉えられます。


【手法と主要な結果】
Fig. 1c,d 手法説明&分散培養でのvalidation。PLAでそもそもシナプス(LTPが起こるか起こらないかに関わらず)を検出できるか検討。

  • 原理:プレシナプスとポストシナプスにそれぞれ局在し、互いに結合するモチーフ(Neurexin:NrxnとNeurolignin:Nlgn)に対し、人工的な抗原(mycとHA)を付加。オリゴヌクレオチドを付加したmyc抗体とHA抗体でPLA。
  • 実験:分散培養系にmyc-NrxnおよびHA-Nlgnをトランスフェクション。様々なDIVのサンプルにPLAを適用。
  • 結果:分散培養系ではDIVを経る毎にシナプス数が増加することが知られているが、それに対応して、DIVが伸びるほどPLAシグナル密度が増大することが示された(Fig. 1c,d)。つまり、PLAによってシナプスが捉えられることが示唆された。

Fig. 2 培養スライスでのvalidation。PLAでLTPによって挿入されるGluA1の挿入を捉えられるか。

  • 原理:PLAを用いる点、プレシナプスに人工タンパクmyc-Nrxnを発現させる点ではFig. 1c,dと同じだが、今回はポストシナプスに人工タンパクを発現させず、EndogenousなGluA1を用いる。つまり、GluA1への一次抗体にHAタグをつけておき、PLAを行う。
  • 実験:DIV14-18の海馬培養スライスに対し、CA3にSindbis Virusを用いてmCherry-t2A-myc-Nrxnを発現。cLTP等を引き起こしてSYNPLAを適用、CA1を観察。
  • 結果:cLTPを起こした群でPLA密度の増大が見られた。APVによってcLTPを阻害するとこの効果は打ち消された。

Fig. 3 in vivoでのvalidation

  • 実験:ラットauditory cortexおよび・またはMGNにAAV9でGFP-t2A-myc-Nrxnを発現。音恐怖条件付け。条件付け30分後に潅流固定。音恐怖条件付け時auditory cortexまたはMGNから外側扁桃体への投射でLTPが起こることが知らているため、外側扁桃体GFPの蛍光が見えている部分をPLAでイメージング。
  • 結果:条件付けを行った群でのみPLAシグナル密度の有意な増大が見られた。Naïve群やUnconditioned stimulusを与えた群ではこのような増大は見られなかった。


【感想】
人工タンパク質をAAVで局所発現させることによりプレシナプスを送る領域を規定できる点、PLAで高いSN比を担保できている点が良いですね。加えて、ちゃんとvivoでも使えて、市販キットを用いることで比較的安易に導入できそうな点も萌えポイントです。
一方で、パンクタの数がウイルスの力価によって容易に変わりそうなので、inner controlを厳密に取るのが難しそうではあります。あと、LTPがGluA1非依存な経路・細胞種でもこのような手法が使えると更に良さそうだな、とか。