Mのメモ

ポスドクの論文メモ。神経科学関連のツールに触れることが多め。

Gibson Assemblyの価格破壊(10$/mL)と、複数断片クローニング精度を4倍、効率を12倍にするTips

A Simple Enhancement for Gibson Isothermal Assembly

Brian A Rabe and Constance Cepko
bioRxiv, doi: https://doi.org/10.1101/2020.06.14.150979


【概要】

  • 一本鎖DNA結合タンパクを付加すれば複数DNA断片でのGibson Assemblyの精度が4倍(80%!)、効率が12倍になる
  • Tth DNA Ligaseをクローニング、Haloタグつけてキット精製し、いくつかの既製品と組み合わせれば自家製Gibson Assembly Mixが作れて、ランニングコスト激減(×1.33 mix, 10$/mL


【背景】
Gibson Assemblyは末端に約15塩基の相同配列があるDNA断片を手軽に繋ぎ合わせることができます。原理は以下(引用元)。

Gibson Assembly システムは三つの異なる酵素反応を一つのバッファーで行うことで、複数のDNA断片を一括に繋ぎ合せることができるシステムです。

  1. エキソヌクレアーゼが一本鎖の3'オーバーハングを作成し、他方の相補鎖(オーバーラップする部位)とアニーリングできるようにし、
  2. ポリメラーゼでそれぞれのアニーリングした断片の間のギャップを埋め、
  3. DNA ligaseでニックをつなぎ合わせてDNAをつなぎ合わせます。

制限酵素を使ったサブクローニングに比較して、簡単、迅速、自由にコンストラクションができるので、類似手法のIn-Fusionと共に、分子生物学のスタンダード手法になっています。特に便利なのが、3個以上の断片を一気に繋げられる点。しかし、やや効率が悪い点や、繋げる断片の数が増えるほどエラーが入る可能性が高まってしまう点、高いランニングコスト(一回あたり2000円程度)は、地味に厄介でした。

本論文では、問題の原因を、エキソヌクレアーゼが一本鎖DNAに対して持つエンドヌクレアーゼ活性と推定しました。そして、一本鎖DNA結合タンパク質(single-stranded DNA-binding protein, 以下SSBをreaction mixに付加、一本鎖を保護することにより、Gibson Assemblyの効率と精度の上昇を試みました。更に、ランニングコストを抑えるため、自家製mixの調整方法を紹介しています。


【結果】
NEBから買えるSSBをGibson Assembly Mixに付加(後述するが、このmixは自家製)。普通のGibson Assembly Mixと、その上位互換であるNEBuilder® HiFi DNA Assembly Master Mix(既製品)に対し、SSBを加えたGibson Assembly Mixの効率と精度を比較。
実験は、2 or 6断片をベクターバックボーンにクローニングするというもの。うまく行った場合、大腸菌GFP(2断片)、または、GFPおよびmCherry(6断片)を発現。そして、生えた大腸菌の数で効率を評価(元のGibson Assmebly mixを1とした際の相対値)&蛍光タンパクを発現する大腸菌の割合で反応の精度を評価。結果は以下。
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青のEnhancedが今回のSSB付加手法で、赤の元mixに比較すると効率は10倍以上。精度に関しては、2個の断片では殆ど差は無いけど、6個だと元の4倍で、約80%!すごい。


『でも、Gibson Assemblyは高いからあまり使えない…』と思うなかれ。著者らは更に、安価な自家製Gibson Assembly Mixの作り方を書いています。 OpenWetWareのプロトコルが基礎となっていますが、ligaseについては、既製品ではなく、タカラから買えるThermus thermophilusのゲノムからligAをクローニングし、Haloタグつけてキット精製したリコンビナントタンパクを用いる、という改良を加えています。Gibson Assemblyは本来×2 mixで18000円/100μLですが、自家製のものを使えば、×1.33 mixで 10$/mL 以下になるんだとか(つまり1/100以下)。まぁ、そりゃそうすればね、という感もありますが、自分で取ってきた酵素が既存の酵素を代用するかは非自明なので、貴重な情報です。


【感想】
シンプルであるが故に導入が容易で、広まっていきそうなtipsです。SSB付加は特に難しい断片のクローニングで威力を発揮しそう。自家製Gibson Assemblyは大量にコンストラクションする人には有難い。『この酵素自分でクローニングすれば安いんじゃね?』とは誰もが一度は考えることだと思いますが、本当にやるヒト初めて見た気がする。もしリコンビナントタンパク質の作成・精製が面倒であれば OpenWetWare のプロトコル通り Taq DNA Ligase を使うだけでも良さそうだけど、それだと300$/mLくらい、一回当たり3$くらいかな(それでも安いけど)。

In-Fusion派のヒトも多いかと思われますが、SSB付加の方法は応用できるのでしょうか?実験者の作業という点ではIn-FusionはGibson Assemblyと似ていますが、原理は異なります。In-FusionではMg2+と低濃度dNTPs存在下で二本鎖DNAに対して3'→5'エクソヌクレアーゼ活性を示すPoxvirusポリメラーゼを利用して一本鎖を作ります。で、ライゲーションは大腸菌におまかせ。一本鎖がむき出しになるのが効率低下の原因であるならSSBの導入で効率が上昇する可能性もありますが、バッファー等によっても色々変わるかもしれないので、これは試してみないと分かりません。もっとも、これだけ安価にGibson Assemblyができるのであれば、In-Fusionから乗り換えた方がいいかも?という気もしますが。

さて、こういうtips系論文は、本当にワークするのか否かが最も重要ですが、今のところ良さそうだなという印象↓

Cepkoラボの方

別ラボの方

自分でも使用感を確認してみたかったのですが、現在dry系の研究に完全移行しているため、断念!試せるヒトはこっそり情報共有して頂けると嬉しいです。笑