Mのメモ

ポスドクの論文メモ。神経科学関連のツールに触れることが多め。

GCaMP6

【出典】
Ultrasensitive fluorescent proteins for imaging neuronal activity
Tsai-Wen Chen, Trevor J.Wardill, Yi Sun, Stefan R. Pulver, Sabine L. Renninger, Amy Baohan, Eric R. Schreiter, Rex A. Kerr, Michael B. Orger, Vivek Jayaraman, Loren L. Looger, Karel Svoboda & Douglas S. Kim
Nature, 499, 295-302
 


【原理】

  • circular permutationはタンパク質の末端同士を結合し、タンパク質の中間に新しい"末端"を作っても、構造はそんなに変わらない、という変異
  • EGFPなどの蛍光蛋白をこれを導入すると、蛍光は落ちるが、少し構造が変われば蛍光は元に戻る
  • GCaMPはカルモジュリンとミオシンのカルモジュリン結合部位M13がcpEGFPに結合したタンパク質
  • カルシウム存在下でCaMはM13と結合、cpEGFPに構造変化をもたらし蛍光が現れる

 
【Pros and Cons】
P 細胞種特異的なラベリング
P 長期間の観察
C 毒性
 

 

【背景の説明】

細胞内で発現するGCaMPやYCnano等のCa2+指示タンパク質= GECI (Genetically Encoded Calcium Indicator) は、Ca2+指示薬に比べ、

  1. 細胞種特異的な発現・観察が可能
  2. 非侵襲的であるため長期間に渡る観察が可能

 
という2つの大きな利点があります。しかしながら、これらは感度・キネティクスにおいてCa2+指示薬に劣るため、その実用性は限られてきました。この問題 を、大規模かつ網羅的なタンパク質改変&スクリーニングによりタンパク質そのものの性能を向上させるというアプローチで解決したのがこの論文です。
 


【PJの流れ】

大きく分けて二種類です。
STEP1: vitroにおける大規模スクリーニング
STEP2: vivoにおける詳細な機能解析とGECIである強みの証明
 
 ・STEP1: vitroにおける大規模スクリーニング
まず、既存のGCaMP3にどんどん変異を入れてin vitroでスクリーニングをしています。ここでの興味深いポイントは2つです。
 
1. 変異を入れる箇所の検討
 
 そ もそもGCaMPが光る原理はなんでしょうか。GCaMPは人工的に作られた融合タンパク質で、改変GFPにカルモジュリンとM13が結合しています。そ のため、Ca2+の存在下では、カルモジュリンとM13の構造がインタラクションし、それにともなってGFPの構造が変わり、蛍光強度が変化します。これ より、カルモジュリンとM13がインタラクションするアミノ酸を改変すれば、Ca2+に対する親和性が変わると考えられます。この仮説のもと、変異を入れ る箇所が選ばれ、網羅的に変異が入れられました。まず348種類(!)の点変異を解析した後、有用な変異を最大8種類まで組み合わせて更に94種類の変異 体をスクリーニングし、感度の高いGCaMP6s (slow), 変化の早いGCaMP6f(fast), その中間のGCaMP6m(medium)の3つがvivoでの性能解析に進むことになりました。
 
2. 効率的なスクリーニング
 
こういう研究の一番の律速ポイントです。ニューロンはHEKやHeLaに比べCa2+の 濃度変化が素早く、そのピークも低いため、改変タンパク質の機能解析はニューロンで行わなければなりません。しかしながら、これは同時に手間がかかるとい うことを意味しています。それがこれまで大規模かつ網羅的なスクリーニングの律速となっていました。今回筆者たちは、レンチウイルスを用いた比較的簡便な 方法で各プラスミドを海馬分散培養細胞に形質転換させた上で、オーダーメイドの電極で24穴プレートのそれぞれをフィールド刺激し、機能解析をするという 方法を取っています。これが非常に効率の良い方法だったようです。
 
 ・STEP2: vivoにおける詳細な性能解析とGECIである強みの証明
色々やっていますが、ここで筆者らが何が言いたいかというと「蛍光指示薬より感度が強い」と「GECIとしてのメリットがある」ということです。
 
 
 「蛍光指示薬より感度が強い」
・単一活動電位が拾える → 6sだけ、単一の活動電位を拾えると書いてあります。またバースト発火でも100-150ms間隔で起こるものであれば分解可能だそうです。
・スパインイメージングもできる → こちら6sのデータのみなのでたぶん6sだけが使えるんだと思います。
 
 「GECIとしてのメリットがある」
・クロニックな観察が可能 → 少なくとも1-2ヶ月は観察可能、しかも回路の機能を妨げることはない、としています。

・細胞種特異的な観察が可能 → GABA作動性インターニューロンを見ています。ただし用いているプロモーターが錐体細胞にも発現するため、最終的にはスライスにしてPV染色をしています。

生物学的に面白い新発見として、特定の方位選択性がある錐体細胞への入力は、それと同じ方位選択性がある錐体細胞からのものが多くなっていること。また、イ ンターニューロン樹状突起は方位選択性のある部分に分けることができ、個々の部分の広さは個々のシナプスの間隔より圧倒的に大きいこと(クラスター化し た入力、または、少数のとても強い入力←IpSTと似たコンセプトでしょうか、を反映していると考察されています)が観察されています。単なるツール開発 だけでなく新発見に繋げたのがNatureになったポイントでしょうか。
 
 
 
【感想】


・ この論文で注意しなければならないのはOGB-1と 比較して「より速くかつより高感度」なタンパク質は作られておらず、「より速いがすこし低感度(6f)」もしくは「すこし遅いがより高感度(6s)」なタ ンパク質しか出来ていないという点です。遅いと言っても連続したスパイクを拾うのに十分な速さなので気にしなくて大丈夫と言っていますが…。

・ 細胞種特異的な観察の点ですが、結局免染で確認しているのであまりスマートでないように感じます。methodを見るとPV-IRES-Cre mouseにもインジェクションをしてきちんと発現を確認しているようですが、ラベリング効率が良すぎて樹状突起を長い距離追うことが難しくなるようで す。今回はスパースに発現させるためにウイルスを用いているとのことですが、ではなぜこれをPVインターニューロン特異的なプロモーターを用いてやらな かったのかは不明です。リソースの問題でしょうか。
 
・AAVインジェクションの5ヶ月後の発現を見たものもサプリ にありますが、GCaMP6sが核内に移行しているようです。GCaMP6sが核内に移行したニューロンの反応性は普通のものと違い方位選択性が殆ど無い とのことです。これがGCaMP6sの特性によるものなのか、AAVウイルスによる特性のものなのかは定かではありません。