Mのメモ

ポスドクの論文メモ。神経科学関連のツールに触れることが多め。

4.5×4.5=??

Iterative expansion microscopy

Jae-Byum Chang, Fei Chen, Young-Gyu Yoon, Erica E Jung, Hazen Babcock, Jeong Seuk Kang, Shoh Asano, Ho-Jun Suk, Nikita Pak, Paul W Tillberg, Asmamaw T Wassie, Dawen Cai & Edward S Boyden
Nature Methods (2017), Published online 17 April 2017

SfN 2016で×20と×100の次世代型ExMが報告されており(従来は×4.5)、どうやって実装しているのか気になっていたのですが、×20の方の論文がNat Methに出ました。答えは、『拡張できるゲルに標識部位を架橋した上で、拡張を妨げている構造を壊してゲルを広げる過程を、2回やる』だそうです。シンプルなように聞こえますが、実装は意外と難しい。一回目の拡張で伸びきっているゲルの構造を、どうやってさらに拡張させるのでしょうか?

ポイントは架橋剤にあります。一回目の拡張時に、通常のビスアクリルアミドではなく、pH依存的に開裂する架橋剤、DHEBA*1を用いています。一方で、二回目のゲル形成には通常の架橋剤、ビスアクリルアミドを用いています。そして、二回目の拡張時、pHを変化させることでDHEBAを開裂させ、一回目に形成したゲルを壊す、というわけです。こんなことできるんですね。架橋可能なオリゴヌクレオチドを用いた抗体標識部位のハイブリダイゼーションによる保存が、2回目の拡張でも利用可能なところもポイントです。

SfNで発表されていた×100は更に別の架橋剤を用いているんですかね。こんな物性を持つ化合物があることを知りさえしませんでしたが、こういう分野の知識もあった方が色々とアイデアが生まれてきそうですね。

*1:N,N′-(1,2-dihydroxyethylene) bisacrylamide。通常のビスアクリルアミドは正しくはN,N'-メチレンビスアクリルアミド。つまりメチレンにアクリルアミドがNで2個くっついてる構造。DHEBAはメチレンではなくエチレンにアクリルアミドが2個1,2でくっついていて、水酸基も2個1,2でくっついてる。このジオール構造が開裂しやすい。