Mのメモ

ポスドクの論文メモ。神経科学関連のツールに触れることが多め。

LITE

【出典】
Optical control of mammalian endogenous transcription and epigenetic states
Silvana Konermann, Mark D. Brigham, Alexandro Trevino, Patrick D. Hsu, Matthias Heidenreich, Le Cong, Randall J. Platt, David A. Scott, George M. Church & Feng Zhang
Nature 500 (7463), 472-6 (2013)


Feng Zhangラボより。オプトジェネティクスと言えばChR2やArchを利用した神経活 動のコントロールが思い浮かびます。コントロールの時空間・細胞種特異性が、神経の活動と行動の因果関係に迫ることを可能としています。この光によるコントロールの利点をゲノム内の遺伝子発現に応用したメソッドが開発されました。それが今回紹介するLITE(Light-Inducible Transcriptional Effectors)です。

 結論から言えば、2つのAAVウイルスを打つだけで、任意のゲノム遺伝子発現を光でコントロールできるようになります。

その原理は非常に簡単です。シロイヌナズナからとれるCRY2とCIB1はブルーライト下で結合、なければ解離するタンパク質です。それを利用して、AAV その1にTALEs(任意の配列に結合可能)とCRY2を結合させたもの、AAVその2にCIB1とVP64(発現調節因子)を結合させたものを乗せてい ます。これによって、光があるときだけVP64がゲノム上の狙った位置にリクルートされるようになり、遺伝子発現量が上昇します。

 
発現量の上昇ですが、neuros2では30min後には既に上昇(約5倍)が確認できており、12h後にピーク(約20倍)に達しています。

 
な お、VP64は発現を促進しますが、これをSID4Xにすればヒストンのアセチル化を介したエピジェネティックな変化によって発現量を抑制することができ るようです(epiLITE)。つまり、このシステムを用いれば、遺伝子発現の促進と抑制、両方向のコントロールが可能になります。

 なお、CIB1は植物では転写因子として働くのですが、哺乳類でもその効果が少し出てしまうようです。そのためバックの発現賞が上がってしまいます。この影響を減らすため、

・CIB1に変異を入れておく
・TALE-CIB1が光の非存在下でDNAに結合することがないよう、核内移行シグナルを排除しておき、二量体になって初めて核内に移行するようにする

 などという工夫をしています。

(い つの間にかfig 1.で用いられていたTALE-CRY2PHR/CIB1-VP64がfig 3.ではTALE-CIB1/CRY2PHR-VP64と組み合わせが変わっているのですが、この理由は明記されていませんでした。この辺の工夫に関連し ているのでしょうか。)

特に記載はありませんが以下のことはまだまだ解決すべき問題かと思います。

 

・Grm2以外の遺伝子のTALEの有効性はハイブリッドのシステムで確認されておらず(VP64を直接結合したもので発現量の上昇を見ている)、『有効でありうる』程度の確認しかされていない
・ある遺伝子が何倍発現するかは、遺伝子によってかなり異なる(1.5から30倍まで)
・in vivoでの発現量の上昇はプライマリーカルチャーで見た発現量の上昇より幅が低い
・エピジェネティックな変化は可逆的ではない
 

ツール系の論文でbiologicalな新発見が無かったのにnatureに通っているということが意外でした。TALEの代わりにCas9を用いてもシステ ムは回ること、SIDX以外のヒストンへのエフェクターの検討も進んでいることから、LITEはこれからどんどんリファインされていくと思います。in vivoでの応用からどのような新発見があるのか楽しみです。