シーケンシングで個々のニューロンの投射先を一挙に調べる
High-Throughput Mapping of Single-Neuron Projections by Sequencing of Barcoded RNA
Kebschull JM, Garcia da Silva P, Reid AP, Peikon ID, Albeanu DF, Zador AM.
Neuron. 2016 Sep 7;91(5):975-87.
一般的な順行性トレーサーは、特定の領域に存在するニューロン全体の投射先を知ることはできても、個々のニューロンがどのように投射しているのかを知ることはできませんでした(Allenの脳地図とか)。一方で、単一ニューロン標識は例数を稼ぐのが大変です。そこでZadorらは、特定の領域内に存在する個々のニューロンの投射先を一挙に解析する手法を確立しました(MAPseq)。用いたのは、なんとシーケンシング。基本的なアイデアは以下の通り(Fig. 2)。
- 30塩基のDNAライブラリをsindbisウイルス(高い発現量を持つ)にパッケージング。で、特定の領域にインジェクション。一個のニューロンにだいたい一個のウイルスが感染。個々の塩基の並びをあたかも『バーコード』のように取り扱うことで、これを発現する細胞のIDとして利用することができる。なお実際は、このようなバーコード配列にはMAPP-nλ結合配列(boxB, 後述)が連結している。また、sindbisウイルスはMAPP-nλ(後述)とGFPも発現する。
- 特定の配列(boxB)を認識してRNAに結合するタンパク質と軸索に移行するタンパク質の融合タンパク質(MAPP-nλ)を用いて『バーコード』RNAを軸索まで十分量移行。
- 投射先領域の切片からRNAシーケンシングを行い、どのバーコードが存在していたかを調べることによって、個々のニューロンがどこに投射していたのかを知ることができる。
Brainbowに発想を得たんだそうです。蛍光タンパク質の組み合わせよりも、塩基を組み合わせた方が自由度が高いことに気付いてこうなったんだとか。天才の発想ですね。ただ、もちろん問題点はあります。主なものは以下の通り。
1個めの問題については、ウイルスの力価と量を調製すればおおよそ1つのニューロンに1つのバーコードを発現させられるようになるんだとか(Fig. 3B)。2個めの問題については、バーコードの数が感染するニューロン数より多いから大丈夫だと言っています(Fig. 3F)。ちょっとキナ臭いけど。笑
で、実際にこの系がワークすることはFig. 4で示されています。ちょっと前の論文ですが、bioRxivにこの手法を使っていた論文が上がっており(Mrsic-FlogelとZadorの共著、figの体裁的にNature?)、そういえばこの画期的な手法をブログで紹介してなかったなぁということで。